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「そういえば有希の誕生日っていつなの?」 いつものように集まった喫茶店の席で、思い出したような顔でハルヒが聞いた。 長門は手元の分厚い本から目線を上げ、不思議そうな表情で団員それぞれの顔を見たあと、 ハルヒを見つめて固まってしまった。 「どうしたんだ?突然」 「やっぱり団長たるもの団員の誕生日くらいは祝ってあげないとね」 ハルヒは有難がれとばかりに胸を張っている。 俺の誕生日は知らんくせに。 「で、いつなの?過ぎてからではお祝いのしようもないからね」 続けられた質問に、長門はきょとんとした無表情のまま俺のほうに顔を向ける。 「どうすれば」と言わんばかりに。 そう言われてみると、長門の誕生日はいつになるのだろう。 厳密に言えば3年前の情報フレアとやらの日なんだろうが、それじゃこいつは3歳ということになってしまうしな。 まぁ誕生日なんて調べてわかるもんでもないだろう。 適当に決めちまえばいいさ。 ながとだから7月10日とかね。 産まれた日がいつかなんてハルヒも気にしやしないさ。 そんな風に考えながら笑顔を向けてやると、長門はわかったとばかりに数ミリだけうなずいて、ハルヒに向かって 「今日」 と告げた。 おいおい、お前の誕生日が何月何日でも誰も迷惑しないが、今日ってのはないだろ。 突然すぎるぞ。 しかし、言ってしまってはもう遅い。 ハルヒはテーブルに勢いよく手をついて立ち上がると、 「何で言わなかったのよ!?有希?」 店内に響き渡る声でツバを飛ばしながら叫んだ。 朝比奈さんまで 「そうですよー」 なんて言って困った顔をしている。 あなたは気付いてください。 それは長門が今設定した誕生日ですよ。 古泉は古泉で、 「プレゼントを用意していませんね」 などと肩をすくめて微笑んだ。 お前は芝居がかりすぎだ。 「そうよ!プレゼント!準備してないじゃない!」 ハルヒは立ったまま続け、 「有希、今欲しいものある?」 テーブル越しに、こればっかりは優しい口調で問いかけた。 「今日は有希の誕生パーティに変更するわ!さぁ、なんでも好きなものを言っていいのよ」 長門はやっぱり無表情のまま…それでも考えるような仕草をわずかに見せて、 「遠慮することないのよ」 と微笑みかけるハルヒの胸のあたりに視線を止めた。 「え?何?」 俺も興味があった。 ハルヒを見つめる長門が、何を欲しいと言い出すのか。 真っ黒な瞳が少しだけ動き、「いいのか?」と問うようにハルヒの顔を見上げて、 「洋服」 「…服?」 長門が見ていたのはハルヒの体ではなく、着ている布のほうだった。 「いいわ!有希、思いっきり可愛いの選んであげる!」 ハルヒは、先ほど驚いたときと同じ様に机を叩いて立ち上がり 長門の好みを問いただし始めたが、長門の視線はハルヒの胸あたりに固定されたまま動かない。 何かを言いそびれたように、俺には見えた。 「涼宮さん」 長門の表情を読もうとしている俺の向かい側に座っていた古泉が口をはさむ。 皆の顔が自分のほうに向くまでゆっくりと間をつくってから 「僕が思うに、長門さんは今涼宮さんが来ているそのカーディガンが欲しいのではないでしょうか。違いますか?」 微笑みたっぷりで妙なことを言いやがった。 確かに、長門の視線はそこに止まっていると言えなくもないが… 「そうなのか?長門」 重金属みたいな瞳がゆっくりとこちらを向いた。 「そう」 わずかに顎を引く。 「許されるなら」 そう言ってその瞳は、俺から視線をはずしてハルヒを見上げた。 その時俺は真っ白い能面みたいな無表情の中に、 小動物が抱いてくれと懇願するときの様な、そんな雰囲気を感じとった。 「そりゃいいけど…。お古でいいの?サイズもちょっと大きいかもよ」 若干照れながらハルヒは着ていたカーディガンを脱ぎ、顔の横で示すように広げた。 長門はそれを肩から先だけ動かして受けとると、確かめるように胸に抱き締めた。 「あなたが着ていたという事実が大切」 横で朝比奈さんが顔を真っ赤にして口元を押さえている。 俺も少し赤くなっていたかも知れないが…。 誰より赤面していたのは、他でもない、ハルヒだった。 次の週末、いつもの駅前には珍しく私服の長門がいた。 少し大きめの白いカーディガンの袖口から、生地よりもっと白い指先だけが見えている。
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名前 アマテラス 種族 ソルロック 性別 ♀ マスター ハル うp主 季節の人 第3話で初登場したソルロック。ツクヨミの姉でもある。 化石目当てで山を荒らすR団を撃退する為、姉妹揃ってハルの仲間となった。 性格はお気楽であり太陽のごとく明るい。一人称は「あたし」であり、ハルを「マスター」と呼ぶ。 お月見山を救った後はオーキド博士の研究所で世話になっている。 だが、時折研究所を脱走しアキの手持ちに入り込んで登場するなど、 空気キャラにならぬよう日々努力(?)している模様。 また、オマケコーナーで妹と共にMCを勤めている。
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クルピンスキー「ねぇ、エディータ。ガランド少将がここへ来るって話・・・・・・聞いた?」 ラウンジにて共に卓に着くロスマンに向かって頬杖を突きながら、クルピンスキーは気だるげな表情を浮かべ、空いた手で湯気と仄かに甘い香りを漂わせるティーカップの側面を繊手で撫でる。 淹れたばかりなせいかカップは紅茶の熱気によって温められていた。 ここ最近はネウロイの行動も観測されず、大した出撃もない。 暇を持て余す自分たちがこうしてラウンジに集まっては俺が買って来たブリタニアの菓子をつまみあうのはこれで何度目になるだろうか。 そんなことを考えていると今朝の食事の時にラルから聞かされた話を思い出し、話題にする。 ロスマン「えぇ。各部隊を視察するみたいで最初は私たち502らしいわね」 ニパ「ガランド少将って確か・・・・・・」 サーシャ「俺さんをこの部隊に派遣した人ですよ」 同じように別のテーブルでトランプ遊びに興じていたニパとポクルイーシキンが手を止めて、二人に目線を移す。 ジョゼ「どんな方なんでしょうか・・・・・・?」 定子「少将ともなると・・・・・・きっとすごい人ですよ」 クルピンスキー「そうだね。ウィッチとして最高の階級だし、撃墜数も100機を超えるエースだよ」 管野「ぅわ・・・・・・」 ニパ「そんなにすごい人なんだ・・・・・・」 ロスマン「新技術への理解も深く、おまけに現場主義だからウィッチたちの信頼も厚いの」 クルピンスキー「僕も少しの間だけ少将の部隊に所属してたんだよ」 レシプロストライカーに代わる新型のジェットストライカーユニット。 ガランド自らもテスト飛行を行う試験部隊ことJV44に参加していた経験があったクルピンスキーは懐かしむようにそのことを口にした。 ジョゼ「そんな方が来るなんて・・・・・・何だか緊張してきました」 クルピンスキー「もう! 可愛いなぁ! 今夜僕と一緒にお酒でも・・・・・・っていたいたい!」 ロスマン「あなたはすぐそれなんだから。お願いだから少将にまでそういうことしないでよね?」 ガランドの経歴を聞かされ縮こまってしまったジョゼににじり寄るクルピンスキーの頬をロスマンが抓り上げた。 クルピンスキー「あいたたた。分かってるよ。いくら僕でも少将には勝てそうにないしね」 解放され赤くなった頬を擦りながら、クルピンスキーは悪戯めいた表情で窓辺へと歩み、ガラス越しの青空を見上げた。 輸送機の窓越しから見える光景に視線を落としてみれば、眼下を覆うバルト海がその清々しいまでの蒼を晒し、遥か彼方にはウラルの山々が微かにその姿を見え隠れさせていた。 普段ならば耳障りにしか聞こえない輸送機のエンジンが立てる駆動音も、その日はやけに心地良く感じられる。 すらっとした長い脚を組むガランドは首から提げる小銃用照準眼鏡を手の平の中で転がしながら、平和を保ち続ける景色を眺める景色に頬を緩めた。 ガランド「こんな綺麗な景色を見せられると世界がネウロイの脅威に脅かされているということが嘘みたいだ」 もちろん人類とネウロイの戦争は今も続いている。ガリアやオストマルクといった欧州の国々は未だネウロイの占領下にあり、彼女の祖国でもあるカールスラントも同様にネウロイによって征服されていた。 秘書官「随分とご機嫌ですね。少将閣下」 目的地が近づくに連れて、眼前の女性の笑みが一層濃くなっていく様を見つめながら秘書官の女性は眼鏡のブリッジを指で押し上げた。 整った面差しに刻み込まれた深い疲労の痕から彼女がどれだけの重荷を抱え込んでいるのかが伺える。 ガランド「おや? 秘書官君にはそう見えるかな?」 秘書官へと視線を戻し、微笑みかける。その流れるような身のこなしは舞台女優を思わせるほどの上品さに満ち溢れているというのに、何ものにも動じない堂々とした空気をも兼ね揃えているのは彼女がカールスラント空軍所属のウィッチだからだろう。 艶やかな光沢を帯びる腰まで伸びた黒髪は一見すると扶桑人のそれと見間違えてもおかしくなく、シャープな頬は口元に浮かび上がる笑みによって形の良い笑窪を晒していた。 優雅と美艶の双方を兼ね揃える白い容貌に象嵌された青い瞳に漂う優しげな色を見つけ、思わず息を呑んでしまう。同性の自分でさえも見惚れてしまうほどに彼女の青い宝玉が放つ光は魅力的であった。 ガランド「久しぶりに彼に会えるんだ。楽しみにするなと言う方が酷だと思わないか?」 秘書官「だからといって! いきなりペテルブルクに行こうだなんて急過ぎますよ!!」 おやおやと肩を竦め、特に悪びれる様子を見せ無い少将閣下に対して秘書官は声を荒立てるも、当のガランドはイジワルっぽく笑うだけだった。 それが益々彼女の怒りに油を注ぐことなる。 秘書官「閣下はもう少し自重してください!!」 しかし、彼女が持つ幼い外見がその怒気の迫力を削ぎ落としており、傍から見れば真面目な妹が自由気ままな姉に対し不平不満をぶつけているような光景にしか見えない。 ガランド「はははっ。気をつけるよ」 秘書官「もう!!」 ガランド「ふむ。もしかして……秘書官君は寒いところが嫌いなのかい?」 秘書官「確かに寒いのは嫌いですけど……あぁ……もういいです」 このまま噛み付いたところで今の状況も、ましてやガランドの悪い癖も治るわけがないのだと悟った秘書官はこれ見よがしに大きな溜息を吐いて見せると、窓の外の景色に視線を落とし、数時間前の出来事を回想する。 ―――数時間前 空軍准将「これはこれはガランド少将。ごきげんよう」 会議を終え執務室へ向かう途中、通路の向こうから歩いてくる男性に二人は足を止めた。 見慣れた軍服の上着にごちゃごちゃと勲章をぶら提げたその初老の男性には見覚えがあった。 ガランド「准将殿」 空軍准将「良い天気ですな」 ガランド「用があるなら速やかに言ってもらいたい。私も暇じゃないのでね」 この手の手合いが遠回しに何かを伝えようとするときは決まって同じことを言うのだとガランドは経験上熟知していた。 彼女の言葉に凍えた響きが含まれているのも、それが理由だろう。 空軍准将「ぐっ……時にガランド少将。貴女に是非会って頂きたい男がありまして……今晩一緒に食事でも―――」 ガランド「縁談の件なら、お断りさせてもらおうか」 空軍准将「なっ!?」 ガランド「失礼」 氷刃を一振りするが如く空軍准将の言葉を斬り捨てたガランドは惚けたように口を開け放ったまま立ち尽くす彼を置いて、足早にその場から立ち去った。 秘書官「最近はよく同じ話を聞きますね」 ガランド「これで八度目だよ……まったく嫌になる」 書類を胸の前で抱え持つ秘書官の言葉にガランドは露骨に顔を顰めてみせた。近頃、多くの将官が彼女を家に迎えようと自身の子息との縁談を持ちかけてきている。 秘書官「それだけ閣下が多くの殿方を惹きつけているんですよ」 ガランド「単純に私の地位に目が眩んでいるだけさ。カールスラント空軍ウィッチ隊の総監を務める私を妻に迎えれば軍内部での発言力が強くなるからね」 一人が近づいてくれば、遅れるなと言わんばかりにぞろぞろと雁首を揃えてやって来る現状にガランドは滅入りそうに目を細めてみせた。 秘書官「ですが中には……閣下のことを真剣に愛している方もいるのでは?」 ガランド「そうだとしても。自分の夫は……自分で決めたいんだ」 秘書官「その気持ちは……分かります」 同じ女としてガランドの考えには共感できる。一生を共に過ごす相手は自分が好きになった男を選びたい。女性なら抱く当然の感情だが、ガランドの場合は彼女自身の立場が足枷となっているようにも見える。 ガランド「……そうだ秘書官君。今後のスケジュールで各部隊の視察があったね?」 秘書官「は……はい」 ガランド「なら最初の行き先は決まった。すぐペテルブルクに向かおう」 秘書官「・・・・・・はいぃ?」 そして今に至る。 彼女の秘書官に抜擢されてから三年以上の時が経つが、これほど突拍子な行動に出るウィッチを自分は今まで見たことが無い。ましてや、その人物の秘書官が自分なのだから世の中というのは不条理なものだ。彼女の唐突な行動に何度枕を涙で濡らしたことか。 秘書官「ペテルブルクと言えば欧州随一の激戦区じゃないですかぁ。また皇帝陛下にお小言を言われてしまいますよぉ・・・・・・」 ガランド「小言くらい慣れているさ。それに総監たるもの、あらゆる前線の状況をこの目で見て把握していなければ」 秘書官「嘘つけ。単純に俺さん目当てなだけでしょう?」 ガランド「それよりあと少しで到着だ」 秘書官「(ちっ。上手く逃げたな・・・・・・)」 滑走路に降り立つ輸送機のドアから姿を見せるガランドが秘書官を連れて、到着を待っていたラルに近づき、手を差し出した。ラルもまた差し出された手を握り返し、穏かな笑みで彼女を迎え入れる。 ラル「ガランド少将」 ガランド「やぁ少佐。元気そうで何よりだね」 ラル「少将こそ」 ガランド「ところで俺くんは元気かな? 腕を負傷したと聞いたが・・・・・・」 ラル「あいつなら既に完治して職場に戻っていますよ。戦闘にも参加出来ています」 ガランド「そうか・・・・・・よかった・・・・・・」 ラル「少将?」 ガランド「あぁ、何でも無い。それより俺くんは・・・・・・いや、見つかったよ」 口元に笑みを湛えてガランドは滑走路の隅をモップで磨く一人の男へと歩み寄った。 一方で男は気付いていないのか、それとも彼女のことなど気にも留めていないのか。黙々と地面を磨くことに徹していた。 俺「めずらしいな。お前さんがここへ来るなんて」 ガランドが男の傍で足を止めるのとほぼ同時に彼がモップを動かす手を止めて呟くように零した。 今日は雨でも降るのかなと、男は天を仰ぎ見る。 ガランド「私はウィッチ隊総監だよ? 現場の状況くらい自分の目で確かめておかないと」 それもそっか、と返す男が帽子を外して笑みを向けた。見ていて心を安らかにさせる人好きのする笑み。 ガランド「やぁ俺くん。君も元気そうでなによりだ」 俺「そういうフィーネもな」 あれから仕事を切り上げた俺は案内役兼護衛役としてガランドと共にペテルブルクの市街地へと繰り出していた。 隣を歩きながら初めて目にする極北の街並みを満足げな笑みを面差しに湛えるガランドの姿を横目に捉え、 俺「(こうして見ると軍人には見えないな・・・・・・)」 胸中で独りごちる。 俺「それにしても随分と無用心じゃないか。少将閣下ともあろう方が護衛もつけずに街を出歩くなんて」 俺の指摘は尤もだった。 将官クラスともなれば護衛も必然的に多くなる。だが今、彼女の傍に控えているのは俺ただ一人であり、余りにも無防備な状態といえよう。 ガランド「まさか。君ほど腕の立つ護衛はいないよ。それと……その少将閣下というのはやめてくれないか?」 俺「何言ってるんだよ。初めて会った時はお互い大尉だったのに今じゃ雲泥の差じゃないか」 ガランド「……そうじゃない・・・・・・そうじゃないんだ」 ―――・・・・・・君まで私を少将という肩書きでしか見てくれないのか?――― 青い瞳に悲しみを漂わせ、足を止めて顔を伏せるガランドに向き直る俺の目が幾分か見開かれた。 彼女がこんなにも感情を露にしたのは一体いつ以来のことだろうか。 ガランド「君と私は……上司と部下といった関係じゃないだろう……?」 俺「だけど・・・・・・主と駒の関係だ」 ガランド「それでも・・・・・・せめて君の前では……ただのアドルフィーネ・ガランドでいたいんだ……」 俺「・・・・・・悪かったよ」 ガランド「そう思うなら誠意を見せて欲しいね」 俺「何だよ。誠意って」 ガランド「そうだなぁ・・・・・・これでどうだ?」 俺「フィーネ!?」 素早く俺の腕に自分の腕を絡め取ったガランドは満足げな表情を浮かべていた。 その余りの切り替えしの早さに内心戸惑いつつも、自身の腕に押し付けられる丘陵状の柔らかな物体に脳髄が溶けそうな感覚に目眩を覚えた。 俺「お前・・・・・・!! さっきのは嘘だったのかよ・・・・・・!!」 ガランド「そんなわけないさ。君の前では一人の女でいたいという気持ちに・・・・・・嘘偽りはないのだよ? そういうわけで今日一日はずっとこうすること! いいね?」 俺「えぇ!?」 ガランド「誠意を見せてくれるのだろう?」 やっぱりこいつには勝てねぇ。 満面の笑みを見せるガランドに俺は密かに戦慄するのだった。 カフェのオープンテラスの一角で一息吐くガランドがティーカップをテーブルに置き、徐に口を開いた。 ガランド「ブリタニアでの切り裂きジャック事件の解決。ご苦労だったね」 1888年のかつてのブリタニアで名を轟かさせた連続猟奇殺人事件がロンドンにて再び発生し、殺された被害者の中にはウィッチも数名入っていたが故にブリタニアへと派遣された俺は犯人逮捕に躍起になるスコットランド・ヤードの影で、二代目切り裂きジャックの抹殺を終えた。 501統合戦闘航空団の一時的な戦力増強というのはあくまで表向きであり、裏の仕事の隠れ蓑に過ぎない。 本来の目的はウィッチへの障害を密やかにかつ速やかに消去することにあった。 俺「仕事だからな・・・・・・って熱ッ!?」 コーヒーが淹れられたカップを手に取り口元に運ぶ。 中はまだ熱く、そうとも知らずにカップの半分まで飲んだ俺の、身体の内側を駆け巡る熱さに胸元を掻き毟り身を捩る姿を見ていてどこか子供っぽいなと感じながら、ガランドは手元においてあった水が注がれたグラスを差し出した。 俺「あぁ・・・・・・助かったぁ」 引っ手繰ったグラスの中身を一気に飲み干し、力無く背もたれに身を預けた。 人間を惨殺してきた者とは思えぬ態度に気が付いた俺が不意に苦笑いを零す。 慣れてしまったのだ。 人を斬ることも、命を奪うことも。殺人という卑劣な愚行を何とも思わない自身に対し、くつくつと嘲りを込めて笑う俺をガランドは痛切な色を瞳に湛えて、見つめることしか出来なかった。 前線でネウロイと戦うウィッチを守るために彼が選択した道は、彼女らを脅かす存在を人知れず葬る暗殺者としての人生であり、そうさせてしまったのは他ならぬガランド自身。 まだ佐官だった頃に基地近くの酒場で杯を交わしながら、共生派をはじめとするウィッチを狙う多くの存在に対する強い憤りを口にした当時の自分に対し、彼は言ったのだ。 ―――だったら俺が連中を始末する。誰かが汚れ役をやらなきゃならないなら・・・・・・俺がやる――― どうせ捕えられれば処刑される連中であり、君が手を汚す必要など無い。 そう説得する彼女に最後まで俺が首を縦に振ることはなく彼は血みどろの暗闘へと身を投じていった。 ネウロイと、そして同じ人間との戦いへと赴くたびに全身に刻まれる傷を増やしながら。 ガランド「俺くん……私は・・・・・・」 後に続く言葉が出なかった。 本当に自分は彼の身を案じているのか? 止めようと思えば止められたはずなのだ。 にも拘らず彼をペテルブルクへと派遣したのは誰だ? 今日まで散々都合の良い駒として利用していたのは誰だ? 結局は自分も彼を駒としか見ていないではないか。 ガランド「(違う・・・・・・私は・・・・・・!!!)」 俺「・・・・・・フィーネが気に病む必要なんかないよ。全部俺が選んだ道だ……どんな結末でも受け入れるさ」 ガランド「だが……!!」 俺「……俺さ。初めは男も魔力を持っているもんだって思ってた」 智子と遊び回っていたとき偶然にも眠っていた魔法力が発現した。 切欠はどうあれ使い魔との契約も結び、稀少な男性ウィッチとなった自分をスカウトしようとやってきた陸軍の将校から聞かされた話で俺は初めて魔力を持つ男性の数が女性と比べると圧倒的に少ないことを知った。 初めの内は陸軍に入るかどうかで悩みもした。 誰かのために戦うことは立派だけれども、常に命の危険がつきまとうことへの恐怖感が幼かった当時の自分の決断を鈍らせたのだ。 それでも妹分の智子一人を軍隊にいかせるということを受け入れることが出来ず、俺も幼い彼女と共に陸軍の士官学校へと入学した。 ガランド「俺くん……?」 俺「どうか私の娘も守ってくださいって。色々な人からおんなじこと言われたよ。その意味に気付けたのは……死んだあとだった」 ガランド「……」 俺「俺はさ。ウィッチとして多くの人を守るのと同じくらい、ウィッチを守りたいんだよ」 俺とて全てのウィッチを守れるとは考えていない。 今まで守ることができた命もあれば、守ることができなかった命もある。 だからこそ、救うことができなかった命の分まで、一人でも多くのウィッチをネウロイとの戦争が終わるまで生きていられるようにしたい。 せめて戦いが終わった後は家族や友人といった大切な人たちと平和な時を過ごして欲しいから。 俺「こんなものを授かっちまった以上はやれることやっとかないと……な? 残りの魔力が絞りカスぐらいしかなくたって……やることやらずに腐るわけにはいかないだろ?」 ガランド「俺くん・・・・・・すまない・・・・・・」 俺「謝らないでくれ。知らないおっさんに使われるよりかは見知った美人に使われるほうがずっと良い」 それに俺大尉はもう七年前に死んだのだ。 いくら血で染まろうが、泥を被ろうが・・・・・・死んだ人間は何とも思わない。誇りだとか名誉だとか。亡者の自分には無用の長物でしかない。 俺「最初に言っただろ。誰かがやらなきゃならないことだって。それであの子たちが守れるなら……何だってやってやるさ」 一片の迷いも無い俺の黒瞳には硬質な光が宿っていた。 ガランド「楽しい時間とはあっという間に過ぎてしまうものだね。今度はもう少し長く回りたいね」 俺「お前は観光に来たのか?」 基地への帰路を辿るなか声を弾ませるガランドに俺は呆れたような目で見つめた。 ガランド「失敬な。一応はウィッチ隊総監として、ここへ来てるのだよ」 俺「一応? 一応ってなんだよ」 ガランド「そっ・・・・・・それはだね・・・・・・」 君に会いに来たという言葉をどうにかして呑み込んだガランドは愛想笑いを浮かべて、茶を濁す。 少将ともあろう人間がたった一人の男に会うためだけに動くことなど許されるわけがない。 隣を歩く男への感情と自分を束縛するしがらみの板挟みに遭いながら、ガランドは胸裏で溜息を吐いた。 一体いつになったら、この想いを告げることができるのだろうか。 シスター「あら? 俺さん」 そんなことを考えていると、目の前から聞き慣れない女の声が俺の名を読んだ。その事実がガランドの柳眉を僅かに吊り上げる。 俺「シスターさん。どうも」 ガランド「むっ」 シスター「今日も良いお天気ですね。洗濯物がよく乾きそう」 俺としては社交的な笑みのつもりなのだろが、ガランドには俺がシスターの肉付きの良い肢体に鼻の下を伸ばしているように見えているらしく、一層不機嫌そうな表情を浮かべた。 俺「そうですね」 ガランド「むむむっ」 頬に手をあてるシスターのしっとりとした微笑みに口元を綻ばせた俺に向けられるガランドの眼つきが、ついに鋭くなった。 そのまま乱入者との談笑に入った途端、彼女の全身が小刻みに揺れ始める。 シスター「あら、いけない。そろそろ帰らないと」 俺「また今度・・・・・・ってフィーネ? どうしたんだ?」 ガランド「ふんっ」 頬を膨らませるガランドの様子に気がつき声をかけるも、彼女の怒りのボルテージは既に臨界点を突破していた。 俺の呼びかけに対して、ぷいっとそっぽを向く。 まるで遊んでもらえない仔猫が拗ねているかのような姿を前に俺はどうして彼女の機嫌がこんなにも悪いのだろうかと首を傾げた。 俺「フィーネ?」 ガランド「……」 俺「おーい。フィーネ」 ガランド「・・・・・・」 やはり返事は返ってこない。それどころか、ガランドの全身から滲み出る怒気の量が少しずつ増しているのは自分の気のせいか。 俺「フィーネさーん」 ガランド「・・・・・・」 俺「どうしたんだよ。何でそんなに機嫌悪いんだ?」 ガランド「ふんっ」 頬を膨らませて近づくや否や両手を俺の頬へと伸ばしたガランドがその肉を思いきり左右へと引っ張った。 ぐいぐいと白魚のような指で引き締まった俺の頬肉を抓み、捻り、上下左右へとひたすら引っ張る。 そのあまりにも容赦の無い指の力に俺の目が大きく見開かれた。 俺「ひででででででっっ!!??」 ガランド「君はっ! 今は私の護衛役として来ているんだぞ? 私の方をちゃんと見てくれないと困るよ……」 シャツの胸元を掴み、縋るようなガランドの青い眼差しに俺の心臓が大きく脈を打った。 見下ろす彼女の美貌は、こんなにも美しかっただろうか。 俺「・・・・・・悪かったよ」 いつの間にか発現させていた猫系統である使い魔の白い耳と尻尾が力無く垂れているのを滲む視界の中で捉え、初めて俺は自分のせいで彼女の機嫌を損ねてしまったのだと気付いた。 ガランド「なら、また誠意を見せてくれないか? 今度は……君の方から頼むよ」 誠意といっても女性を喜ばせる術を知らない俺はしばしの間、黙考しおもむろにガランドの繊手を手に取った。 瑞々しくも柔らかな手を握ると、彼女の指に自分のそれを絡め合わせた俺は気恥ずかしさのせいか、視線を宙に泳がせる。 俺「これで、良いか?」 握る俺の手から伝わってくる温もり。彼から自分にこうして触れてくることなど今まであっただろうか。 思い返してみても、そういったことは一度たりともなかった。だからこそ嬉しいのだ。 俺から自分に触れてくるこの状況が。 ガランド「あぁ、とても嬉しいよ。俺くん」 胸の内側を満たされながら、満足げな笑顔をみせる。 この幸せが少しでも長く続くようにと祈りながら。 諸事情により加筆修正しました。
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建前は冬合宿、その実は今年度最後の大騒ぎ、または古泉劇団発表会の場となった鶴屋家別荘。 掘ゴタツに足を突っ込んで、俺達はハルヒと古泉が共同製作したスゴロクに興じていた。 「はい。次、有希の番ね!」 手元に転がって来たサイコロを拾い上げて、ハルヒが長門に手渡す。 長門はサイコロを手の平で受け止め、すぐに少しだけ手を傾けてテーブルに落とした。 「…に」 振ったサイの目に書かれた数を呟いて、長門はコマを二マス進めた。 げえ。それが俺が長門のコマが止まったマスの指令を読んだ感想だ。 「『団長を気分良くさせる言葉を五種類以上言う』…」 ぱちり、と一回だけ瞬きをして長門はそれを読み上げた。 どうする長門。お前は社交辞令とかには無縁な奴だよな。 天上天下唯我独尊が乗り移ったようなハルヒを褒めるなんて、罰ゲームにしかならないぞ。 そう俺が考えていると、 「有希? その…できなくても別にいいのよ? 有希は素直だから、褒め千切るなんてできないだろうし、キョンみたいに罰金なんて言わないわ」 と、ハルヒが少し困ったように長門の顔を覗きこんだ。 何かもう、文句を言う気にもなれんな。この俺限定の不平等にも長門限定の気ィ使いっぷりにも慣れちまった。 あと暗にそれは褒め千切る天才の古泉は素直じゃないって言ってることになるぞ。 いや、その通りだが。 ハルヒや俺の心配をよそに、長門はコタツの中で身をよじって、ハルヒの正面を向くように座り直した。 お、パスしないのか。 「活発」 ひとつ目だな。まあ嘘ではないだろう。 「健康的」 ふたつ目。あれ、それってひとつ目のと意味被ってないか? 「物怖じしない」 みっつ目。あー、まあな、当てはまるわな。 「優しい」 よっつ目。長門限定だがな…ところでハルヒよ、今のお前に鏡を見せてやりたくてたまらんのだが。 なんつーだらしない顔だ。 よっぽど嬉しいんだろうな。 最後の一個。 五種類以上ってことは、いつつより多くてもいいと言うことだが、最低限のいつつでも上出来だろう。 なんてたってハルヒを褒める言葉だからな、いつつは多過ぎるくらいだ。 さーて、長門は最後に何と言うかな? 「…好き」 それは…褒め言葉なのか?個人的な感情じゃないのか?? 長門の爆弾発言に、見ろ、朝比奈さんはおろか古泉まで固まってるじゃないか。 こんな時でも落ち着き払っている多丸さんは流石だな…鶴屋さん、大爆笑してるのなんてあなただけですよ。 いや、それよりも…おいハルヒ!! なんだってお前はタコみたいに真っ赤になってるんだ!? 「わ、私もよ…」 もじもじ、と効果音を背負えるほど顔を更に赤く染めて言うハルヒに、 「そう」 とあくまで無表情な長門。 朝比奈さんが何となく寂しそうに見えるのは…俺の気のせいだ、うん。 終わり。
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(ポクロウタさんの ぬこハルにゃんの8コマまんがにインスパイアされて) 「もしもし、ハルヒか? おれだ。悪いが、今日行けなくなった」 「ええっ! 何があったのよ!?」 「ぬこが熱を出した」 「うっ。……あんた、まだあの猫(こ)、飼ってたの?」 「だって捨てられるか? おまえにそっくりなんだぞ!」 「……ど、どういう意味よ?」 「……ど、どういう意味って……。痛っ、こら、ぬこ、ツメを立てるな!」 「(むかむかむか)わかったわ!! ぬこがあたしに『そっくり』ってことは、あたしがぬこに『そっくり』ってことよね?」 「ハルヒ、おまえ、何言って……」 「今から、あんたんち行くから! 首を洗って待ってなさい!!」 「おい、ハルヒ、訳がわからんぞ! こら、ぬこ、そんなとこ噛むな!」 (自爆しながらも、そこに食いついたハルヒにスルーをくらわす、フラクラ・キョン。 そしてハルにゃんとぬこハルにゃんの直接対決の行方は? 次回「光る宇宙」 君は立ち直ることができるか?) 「なにい! ぬこに世界改変の力が?」 「このままでは、自立進化の可能性が閉ざされる」 「って、こないだまで『自律進化』って言ってなかったか? というか、長門、その肩に座っているのは何だ?」 「ぬこ有希」 「ぬこが、しゃべった?」 「対有機生命体コンタクト用ニャンコロイド・インターフェース。それがあたくし」 「ニャンコロイドはあんまりだぞ。あと一人称も変だ」 「このままでは、二足歩行の可能性が閉ざされる」 「自立進化って、そういうことかよ!? 確かにうちのぬこは立って歩いてるが」 「にゃあ」 「いきなり、ノーマルぬこに戻るな」 (いきなり《戦線》を広げてどうする? 第1話と何もつながってないぞ。 そしてぬこハルにゃんにライバル出現? 時代はおれたちになにをさせようというのか? 次回「迫撃・双子の悪魔」 また会おうね♪) 「キョン! 来たわよ!」 「ハルヒ! 見なかったか?」 「って何が?」 「ぬこが、いなくなった」 「ええっ!」 「それで、こんなものが」 「書き置き?……なんて書いてあるかまではわからないけど、右の前足ね。この肉球の印」 「ほんとだ」 「なにバカなことやってるの!? 探すのよ、キョン!」 「ああ。しかし、どうやって?」 「とにかく手分けして。そうだ、写真はないの? カラー・コピーして連絡先書いて、電柱にバンバン貼ってくのよ。意外と効果があるって聞いたことあるわ」 「……写真か。撮ったことないぞ」 「あれだけ、いつも一緒にいて!? 何してたのよ?」 「いや、ぬこと自分の2ショットって……なあ、いろいろ、あるだろう。……の手前とか?」 「ん? 何の手前だって?」 「いや、と、とにかく写真はないぞ。どうする?」 「あ、あたしが撮られても……その、いいわよ」 「ありがたい申し出だが、それはちょっと、な」 「躊躇してる暇はないわよ! キョン!」 「いや、ぬこ探すのに、人間の写真はまずいだろ。しかも、おれの連絡先を書くんだぞ」 「……ちっ、既成事実が」 「ハルヒ、何か言ったか?」 「ううん、何も言ってないわ。だったら、とにかく探しましょう。ぬこはそう遠くへは行かないっていうし、あんなかわいい子、見た人は必ず覚えてるわ。聞き込みよ!」 (なにげに黒いハルにゃん、マフラーの色は本物か? 次回「落書き天国 キャプテン自信喪失」 遠い、遠い、ケンタウルスより遠いお星様、私の願いを聞いて下さい・・・。) (つづくのか、これ?)
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無事ではないような気はするものの、とりあえず進級を果たした俺たちだが、 これといって変わりはなく、いつものような日常を送っている。 今日は日曜日で、全国の学生は惰眠を貪っている頃だろう。 諸君、暇かい? それはいいことだ。 幸せだぜ。 俺は、暇になりたくてもできないんでな。 日曜日。 ハルヒが黙っているわけもなく、金を無駄にするだけの町内散策・・・ いや、不思議探索の日となった。 今日も既に全員集合ときた。 いいんだ、もう慣れたよ。 もう、奢り役となって一年も経つんだな。 「キョン!はやくアンタもくじ引きなさいよ!」 分かってるさ。 ハルヒの手に収まった爪楊枝を引いてみる。 印付きか。 周りを見ると、ニヤケ古泉は印なし、朝比奈さんも印なし、長門も印なしを持っていた。 つまり、ハルヒとってことだな。 「珍しいですね。あなたと涼宮さんのコンビとは。」 「・・・長門と朝比奈さん襲ったらコロスぞ。」 古泉はフフフと微笑んだ。 気持ち悪い。 マジで襲ったらシメてやるからな。 「よし!じゃぁ早速行くわよ!」 ハルヒは俺のコーヒーをズズズとすすると、伝票を俺に突きつけた。 「早く来なさい!ドアの前にいるから!」 「キョン君、いつもごめんなさい。」 「いえいえ。」 あなたになら、店ごと買ってやっても構いませんよ。 と言いたいが、そんな金はねぇな。 いつもの様に財布を薄くし、自動ドアを出た。 古泉他二人はもう出発したらしく、希望に満ちたハルヒだけが立っていた。 「おっそいわよキョン!気合が足りないわ!」 「なんの気合だよ。」 「あのね!不思議もそんな甘っちょろいもんじゃないんだから!第一・・・」 ハルヒは後ろ歩きをしながら、俺に話しを聞かせた。 おい、後ろ道路なんだぜ、ちょっとは注意したらどうなんだ。 と思った矢先、向こうの車線から、ものすごいスピードで車が走ってきた。 おい、ハルヒ、危ねぇぞ! 「え?なに言ってんのよキョ・・・」 車は、ハルヒのすぐ後ろに迫っていた。 考えている暇はない。 俺は自分の出せるだけの力で、ハルヒを遠くへ突き飛ばした。 視界からハルヒが消えると、車が目の前にいた。 ******* 感覚がない。 どこからかざわめきが聞こえる。 そして、耳元では、いつものあの声がしていた。 「・・・ョン・・・キョン!」 ハルヒが、顔面蒼白の面持ちで俺に寄り添っていた。 頭がガンガンする。 体もバキバキだ。 周囲の声も聞こえなくなってくる。 やっと分かった。 ああ、俺はきっと死ぬ。 何気なく見やった道路は真っ赤に血染めされていた。 俺の血だ。 ハルヒは助かったんだよな。 神様が消えることはなかったぜ、古泉。 長門の観察対象もなくならない。 ああ、でもせめて最後に朝比奈さんのお茶をー・・・ 「キョン!?だめ!目を閉じないで!開けて!」 そしてハルヒ、俺、楽しかった。 最期に、ハルヒと不思議探索しそこねたな。 楽しかったぜ、ハルヒ・・・ 突然、目の前が真っ暗になった。 闇にいる。 ただひたすら、漆黒の闇の中にいる。 キョン・・・ ハルヒなのか? お願い、目を開けて・・・ 俺は、開けているつもりなんだ。 どこにいる? どこで泣いている? キョン・・・! その声と同時に、世界に光が差し込んだ。 いつかの閉鎖空間のように、バリバリと裂けていく暗闇。 目の前に、ハルヒがいた。 「ハルヒ・・・!」 思わず、叫んでいた。 しかし、ハルヒの目は俺を見ていない。 涙が溢れるだけだ。 そして、俺の真後ろを、さも俺がいないかのように見つめていた。 いや、俺はいないんだ。 「キョン・・・!嫌よ!バカキョン!目、開けなさいよ!」 振り返ると、そこには俺が寝ていた。 蘇る思い出。 ここは、消失事件の病室だ。 そこに、俺が白い顔で寝ていた。 血なんてどこにも付いていない。 まるで、寝ているかのように・・・ 俺は、死んでいた。 そして、今の俺は、幽霊だ。 ついに、異世界人になっちまったか。 天国という異世界のな。 「キョン!」 「ぅぇっ。キョンく~ん!目を・・・目を開けてくださぁ~い!」 「・・・。」 「・・・。」 珍しく、古泉も無言だった。 いつものニヤケ面なんてどこにもねぇ。 みんな、俺を見ていない。 ただ、 ただ、一人だけ、 長門と、目が合った。 ****** 病室から団員が帰る時、長門は俺に 「私の家に来て。」 と、聞こえるか聞こえないか、の声で囁いた。 ドアに触れることはできない。 でも、壁を簡単にすり抜けられた。 幽霊って、どこに逃げても付いてくるって本当だったんだな。 そんなことを考えられるほど、俺は冷静だった。 軽々と長門のマンションの壁をすり抜けると、いつものように置物状態の長門がいた。 「長門・・・。」 「待っていた。」 「お前、俺のことが見えるのか?」 「そう。」 やはり、万能選手だ。 「あなたが今日この世界から居なくなるのは、規定事項だった。」 「なんで言ってくれなかったんだ?」 「私にその権利はない。権利を握っているのは、情報統合思念体。」 「朝比奈さんも言ってくれなかったぜ。」 「朝比奈みくるも、朝比奈みくるの異時間同位体も、それは禁則に該当する。」 やっぱりな。 そんな未来を左右すること、未来人が言ってくれるはずがない。 朝比奈さん(大)も。 「朝比奈みくるの異時間同位体からの伝言を預かっている。」 長門は、俺にファンシーな封筒を差し出した。 朝比奈みくる と丸っこい字でかかれた封筒。 いつだったか、下駄箱に入っていたっけ。 キョン君へ ごめんなさい。 私はそちらへ向かうことができませんでした。 ヒントもなにも言えず、本当にごめんなさい。 そっちの私を面倒見てくれて、ありがとう。 あなたがいたから、今の私があるの。 あなたに出会えてよかった。 朝比奈みくる 向かうことができない、てことは、来ようとしてくれていたんだな。 ありがとう、朝比奈さん。 俺も、朝比奈さんがいてくれてよかったです。 でなければ、あの消失事件で、この世界に戻ることができなかった。 いや、それ以前に三・・・いや、四年前の七夕に行かなかったら、 きっとハルヒにも出会えていなかったさ。 「俺、もう戻れないのか?」 「戻れる可能性はある。私もその可能性のおかげでここにいる。」 「どういうことだ?」 「私は一度、死を経験している。」 どういうことだ? 長門は、情報ナントカに製造された人造人間なんじゃないのか。 「私は以前、普通の人間だったという記憶がある。 しかし、私は突然死に遭遇した。そこで彷徨い、偶然、情報統合思念体に出会った。 感情などの人間性を抹消し、データや情報統合思念体との連結を備え付けられた。 そして、涼宮ハルヒの観察を命じられ、今に至る。」 「俺には詳細が分からんが、お前は元幽霊ってことなんだな?」 「そう。以前、物語を書いた時に、それを題材に書いたはず。」 思い出すは、生徒会長に命じられ、無理やり作ったあの冊子。 幻想ホラーとい難しいお題の話を書いてたっけ。 どこかリアリティがあるのに、なんのことか分からないあの話。 私は幽霊だったのだ・・・みたいなこと書いてたよな? それって、長門、お前自身のことだったのか。 死んだ記憶だけを残されて、自分が何なのかも分からなかった長門。 自分の棺の上にいた人物・・・ それが情報統合思念体の一端末・・・ そこで長門は情報統合思念体と繋がり、自分を有希、と名付けたってワケだ。 「そう。ただし、あなたの可能性は、情報統合思念体と結合することではない。」 「じゃぁ、なんだ?」 未来人になって、TPDDを備え付けられるとか、 超能力者になって、あの神人を倒せ、とかか? しかし、長門はまた違うことを言った。 「あなたにとっての可能性は、涼宮ハルヒに必要とされること。」 古泉は以前、ハルヒは神だと言っていたっけ。 その神の力を最大限に利用し、生きろ、と言っているわけだ。 俺だって生きたいさ。 やり残したことだらけだ。 でも、俺が自分の意思だけを貫いたら、どうする? 俺が死ぬのは規定事項のはずだ。 俺が生きれば、未来にずれが生じるだろう。 また、朝比奈さんがベソかきながら走り回るに違いない。 ・・・俺だって、考えていないわけじゃないんだぜ。 「それはできない。」 長門は俺をじっと見つめたまま動かない。 「俺も生きたいけど・・・そんな、ハルヒの力を利用するなんてできねぇ。」 「そう・・・」 「死人は生き返らないんだ。」 長門はなにも言わなかったが、少し、悲しそうな表情をした。 長門には色々お世話になったさ。 朝倉に殺されかけたとこを、2回も助けてくれたんだ。 無限の八月を一人、記憶を持ったまま、助けも呼ばないで。 もっと、俺を頼ってほしかったさ。 なにもできなくとも、支えくらいならしてやれる。 「・・・ありがとう。」 長門は小さな声でそういうと、 本当に僅かだし、気のせいかもしれない。 でも、 少しだけ、笑った気がした。 「俺がこの世界に留まれるのは、いつまでなんだ?」 「涼宮ハルヒが望むなら、いつまでも。彼女には、あなたに対してやり残したことがある。」 「それを解明すればいいんだな?」 「そう。」 幽霊がいつまでも人間界にいていいもんじゃないからな。 「ただ、彼女がどんな非常識なことでも思ったことを実現させるということを忘れないで。」 「ああ、分かったよ。」 長門は、いつもの平坦な声で、更に続けた。 「あなたと私が話せるのは、最後。私はもうあなたを見ることができなくなる。」 「期限がある、ということなのか?」 「そう。その期限は、あなたがこの部屋から出るまで。」 えらい急な話だ。 いや、でも幽霊と人間がいつまでも話をするのは、変だな。 「うまく言語化できない。ただ・・・あなたには、色んな感情を思い出させてもらった。」 俺が? 長門に感情を? 「それらを全て、言語化するのは難しい。」 「俺でも、役にたったか。」 「感情が皆無だった私に、あなたはたった一つの光だった。」 「光・・・?」 「あんなに気にかけてくれたり、完結に言えば、大切な人であった。」 俺なんて、何もできてないぜ。 なんせ、何の能力もない凡人だ。 長門には、色々迷惑かけっぱなしだったのに。 「あなたと私がSOS団で繋がりを持てたのは、規定事項と信じている。 詳細は不明。でも、繋がりを持てて本当によかったと思っている。」 「俺も、長門と一緒に図書館に行けて、楽しかったぜ。」 また 図書館に 約束、守ってやれなくてごめんな。 「ハルヒを頼んだぞ。朝比奈さんと、古泉にもよろしく言っといてくれないか。」 「了解した。」 「あとのことはまかせろ。絶対に世界を終わりにしたりしねぇから。」 長門は小さくこくり、と頷くとそれ以上はもう何も言わなかった。 この壁をすり抜ければ、長門とはもう喋れない。 会えるけど、もう目を合わせることはできねぇ。 「じゃぁ、俺はもう行く。」 「そう。」 「じゃぁな、長門。」 長門は、もう一度小さく頷いた。 俺はそれを見届けると、壁をすり抜けた。 体が浮いていた。 情報統合・・・ナントカを、「くそったれ」と思っていたが、そうでもないかもしれない。 そいつがいなかったら、長門とは会えなかったからな。 もうすこし、お手柔らかにしてやってくれ。 情報統合・・・思念体。 ******* さて、ハルヒのやり残したこととはなんだろうね。 通夜にはたくさんの人が参列してくれていた。 「馬鹿野郎・・・なんで死んじまったんだよ。」 「キョン・・・最後まで格好よかったね・・・涼宮さんは、助かったんだから。」 谷口と国木田だ。 もう一度、バカやったり、一緒に弁当囲んだりしたかった。 「キョン君・・・寂しくなるよ・・・。」 いつもより元気が50割減になっている鶴屋さん。 あなたには笑顔のほうが似合ってます。 「うわぁぁぁぁん!キョンくーん!」 妹はわんわん泣き叫んでいる。 せめて、お兄ちゃんと呼んでほしいもんだ。 「キョンく~ん、寂しいです・・・」 朝比奈さんは、目を真っ赤に腫らせていた。 そんなに泣かないでください。 素敵なお顔が大変なことになっていますよ。 「残念です。すてきな仲間だというのに・・・」 古泉は、ニヤケ面をどこに置いてきたんだ、という顔をしていた。 すてきな仲間。 素直に嬉しいぜ。 「・・・・。」 長門は終始無言で、俺の遺影をじっと見つめていた。 「・・・・・・・・・・・・。」 そして、ハルヒは泣いていなかったが、目は腫れていた。 そりゃ、あんだけ泣いてたんだ。 団長さんよ、SOS団を頼んだぞ。 雑用兼財布係はもういない。 けど、世界を終わらしたりしないでくれよ、ハルヒ。 ******* 数日経てば、ハルヒの元気も戻るさ、と思っていたが、そうではなかった。 静まり返った文化部・・・SOS団の部室に、俺はいた。 誰とも目は合わない。 いつもの指定席に座るハルヒは、外をじっと見つめたまま動かない。 古泉もゲームを取り出すことなく、じっと一点を見つめていた。 まるで、全てが喪失してしまったかのようだった。 俺は・・・こんなSOS団を望んでいない。 ハルヒだってそうだ。 結局その日は、誰一人口を開く者はいなく、そのまま解散となった。 ハルヒの跡をつけてみた。 ハルヒの後姿はとても小さく見えた。 異変に気付く。 ハルヒ、そっちはお前の家の方向じゃねぇだろ? そっちは確か・・・俺が死んだ場所・・・ 予想は合っていた。 俺の事故現場には花がたくさん手向けられていて、ハルヒはそこに手を合わせた。 「キョン・・・キョンのバカ・・・なんであたしなんか庇って・・・」 バカ、て・・・ 「死んだなんて嘘よ!戻ってきて・・・お願い・・・。」 ハルヒ、しっかりしろ。 俺はもう死んでるんだぞ。 お前がしっかりしないでどうするんだ。 「うぅ・・・キョン・・・。」 ハルヒはその場に泣き崩れた。 街行く人たちが、ハルヒにちらりと視線を送っていく。 一番星が出ていた。 ****** 事件は早々に起きた。 俺は、急に意識が飛んだ。 幽霊に意識があるなんて、初めて知ったよ。 真っ暗な世界。 まるで、眠っているような感覚だった。 「・・・・ン・・・?キョン?」 聞き覚えのある声。 目を開くと、そこにはハルヒがいた。 すぐ、なにが起こっているのか、分かった。 灰色の空間。 いつかの、閉鎖空間。 神人はまだいない。 あの日目覚めた時と同じ場所。 「キョン!?どうして?生きてる、本物?」 「ハルヒ・・・。」 「バカ!どうしてあんな・・・!」 「ハルヒ。」 俺はハルヒの言葉を遮った。 ハルヒは、また、俺と2人の世界を望んだんだ。 戻ってきて・・・お願い・・・ この言葉は、本当のことになった。 長門は言った。 ハルヒの力を忘れてはいけない、と。 「俺は、死んでるんだ。」 「どうして!?今、現にここにいるじゃない!」 「ここは、夢なんだよ。」 「え・・・。」 「前にも、ここに来なかったか?」 丁度、一年前くらいか。 ここで、ハルヒとキスをした。 あれは夢という記憶になっているが、現実なのだ。 「え、キョンも同じ夢を見たの?」 「ああ。たぶん、ハルヒと同じ夢だと思う。」 「戻ろう。こんなところ、ずっと居るもんじゃない。」 手を引こうと、ハルヒに近づくと、俺はハルヒに引っ張られた。 顔がぶつかるのを、寸前で止めた。 「嫌よ。」 ハルヒは真剣な目をしていた。 こいつも、本気なようだ。 「あたしはあんたがいればそれでいい。ここであんたが生きれるなら、あたしはこの世界を選ぶ。 あんた、幽霊なんでしょ?天国の人、異世界人じゃない!私が探していた、最後の不思議。 そして、ずっと探していたわ。 ジョン・スミス」 俺は、驚いた。 ジョン・スミス。 なんでハルヒが知っている? 「あんたが死んだ日、夢を見たの。あたしが中学の時、校庭に書いたメッセージ。 それを書いた人よ。それ、あんただったのよね。あの時のあたしは、ジョンの顔が 見えなかったわ。でも、夢のジョンは、顔がよく見えたの。」 「な・・・」 「あたしを理解してくれて、あたしの初恋の人。」 「・・・」 「それが、あんたよ、キョン。」 つまり、ハルヒは夢で時間遡行をしたんだ。 全ての原点の4年前に。 そうか、その時から俺は異世界人だったんだな。 違う時空から来てんだ。 異世界人で間違いねぇだろ。 「もう、不思議なんて探さなくていいわ!あんたが最後の不思議だもの!」 「ハルヒ・・・。」 「嫌よ、あんたのいない世界なんて、価値はないの!」 ハルヒは、大きな目から涙をこぼした。 まるで、訴えるような目。 「キョン、あたしはあんたが好き。」 「!」 「ずっと、そうだった。精神病でも構わない。だから、お願いだから・・・」 ・・・ああ、俺だってそうだったさ。 自己中心的で、我がままで、無駄に元気で、笑顔が似合ってて、優しいハルヒをな。 「ハルヒ。」 ハルヒは目に涙を溜めたまま、俺を見上げた。 「俺は、元気なお前が好きだった。でも、今のお前は違う。」 「・・・。」 「SOS団だって、元気のカケラもねぇじゃねぇか。」 「あんたがいないから・・・。」 「俺は、こんな世界望まない。」 俺はその場にしゃがみ込み、ハルヒを見上げた。 「SOS団はどうなるんだ?せっかくあそこまで仕上げたのに。 ハルヒ、まかせてもいいよな?」 「あたしをなんだと思ってるのよ、団長様よ?でも、あんたがいないのは嫌。」 「俺は死んでる。死んだ人は生き返らない。」 ハルヒの目から落ちた涙が、俺の顔に落ちた。 あったけぇ。 「大丈夫だ。俺は待っている。何年でも、いや、何十年でも、何百年でも。」 「・・・。」 「お前はゆっくり来い。大丈夫だから。」 「・・・待ってないと、死刑だからね。」 死刑は嫌だからな。 俺は、ハルヒを連れて校庭の中心へ行った。 神人はいない。 青白い世界。 こんな世界より、ハルヒには希望に満ちた元の世界で生きてほしい。 「ハルヒ・・・好きだ。」 「あたしも、好き。」 ハルヒの小さな肩に手を置く。 「俺は・・・ ここにいる。」 ハルヒの涙だらけになった顔が近づき、俺はハルヒにキスをした。 一年前のように、嫌々なんかじゃない。 俺も、ハルヒも望んでいる。 元気なハルヒが大好きだった。 引っ張られっぱなしのあの日常も、俺は大好きだったさ。 やがて、目を閉じていてもまぶしいくらい、周りが明るくなった。 元の世界が閉鎖空間と入れ替わる。 それと同時に、光も消えていった。 その光と共に、俺の体も消えた。 ハルヒ、大丈夫だ。 俺は、ここにいる。 *お*わ*り*
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~部室にて~ ガチャ 鶴屋「やぁ!みんな!」 キョン「どうも」 みくる「鶴屋さんどうしたんですかぁ?」 鶴屋「今日はちょっとハルにゃんに話があるっさ!」 みくる(あぁ、あのことかぁ) ハルヒ「え?あたし」 鶴屋「そっさ!」 ハルヒ「?」 鶴屋「明日、ハルにゃんと長門ちゃん、みくるとあたしで遊び行くよ!」 ハルヒ「でも明日は団活が」 鶴屋「名誉顧問の権限を行使させてもらうよ!」 ハルヒ「えっと……有希はいいの?」 長門「構わない」 ハルヒ「みくるちゃんは?」 みくる「わたしは鶴屋さんから、事前に言われてましたからぁ」 ハルヒ「古泉君とキョンは?」 古泉「つまり男性禁制ということですよね?僕は大丈夫ですよ」 キョン「あぁ、俺も問題ない」 鶴屋「ハルにゃんはどうなのさ?」 ハルヒ「う~ん、そうね。たまにはいいかも」 鶴屋「じゃあ決まりっさ!」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ 鶴屋「さぁ、こっからは女の子同士の話し合いの時間だよ!男子諸君は出てった、出てった!」シッシッ 古泉「そういうことなら帰りますが、よろしいですか涼宮さん?」 ハルヒ「そうね。今日は鶴屋さんに免じて二人とも帰っていいわよ」 キョン「じゃあそうさせてもらうぞ」 古泉「それでは、みなさん。また来週」 みくる「お気をつけて」 鶴屋「バイバ~イ」フリフリ ガチャ 鶴屋「さて、男子は追い払ったね。それで明日は何時頃なら大丈夫?」 ハルヒ「どっちにしろ朝から団活のつもりだったから、何時でも平気ね」 鶴屋「長門ちゃんは?」 長門「大丈夫」 鶴屋「みくるも大丈夫?」 みくる「はい」 鶴屋「じゃあ朝十時に駅前ね!」 ハルヒ「わかったわ」 鶴屋「それとさ、お弁当は持参だよ!」 みくる「近くにお店はないんですかぁ?」 鶴屋「ないことはないけど」 ハルヒ「別にいいんじゃない?」 鶴屋「さすがハルにゃん、話が分かるっさ!」 ハルヒ「どうせだから勝負しましょうよ?」 みくる「勝負ですかぁ?」 ハルヒ「そう料理対決!学年別のチーム戦よ!」 鶴屋「ってことは、あたしとみくる対ハルにゃんと長門ちゃんだね?」 ハルヒ「そうよ」 鶴屋「望むところっさ!ねっ、みくる!」 みくる「ふふふ。そういうことなら頑張っちゃいますよぉ」 ハルヒ「有希もそれでいいわよね?」 長門「いい」 ハルヒ「じゃあ今夜は有希のうちに泊まりいくわよ?」 長門「構わない」 鶴屋「それならあたしもみくるんとこ泊まりに行こっかなぁ」 みくる「わ、わたしの部屋はちょっと~」 鶴屋「いつになったら部屋片付けんの?」 みくる「そ、そういうわけじゃないですってばぁ~」 鶴屋「なら今夜はあたしんとこ来なよ!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「それで、鶴屋さん。明日はどこ行くの?」 鶴屋「それは明日のお楽しみっさ!」 ハルヒ「団活休みにするくらいなんだから、楽しみにしてるわね!」 鶴屋「あんまりプレッシャーかけられると困るんだけどな~」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ みくる「涼宮さん、今日はこの後どうしますかぁ?」 ハルヒ「そうね、あの二人帰しちゃったし……」 鶴屋「じゃあ解散でいいじゃん!あたしは明日のレシピをみくると相談せねばね」 ハルヒ「そうしましょっか」 みくる「それじゃあ、一度家に帰って着替えを取りに行きますねぇ」 鶴屋「あたしもついt」 みくる「鶴屋さんはおうちで待っててくださいね」 ハルヒ「みくるちゃん随分かたくなに拒否するわね……何かあるの?」 みくる「そ、そういうわけではないんですけどぉ……」 鶴屋「ハルにゃん、ハルにゃん、みくるはきっと部屋に男を飼ってるんだよ」ボソ ハルヒ「ウソ!?」 みくる「つ、鶴屋さ~ん、そんわけないじゃないですかぁ~」 ハルヒ「みくるちゃんがね~」 みくる「涼宮さんまで~」 鶴屋「あはは、それじゃ解散しよっか!」 長門「……」パタン ハルヒ「有希もきりがいいみたいだしね」 みくる「部屋に男の人なんかいませんからね?」 鶴屋「分かった分かった、ほら帰るよ!」 みくる「適当じゃないですかぁ」 ハルヒ「有希、あたしも家帰って、それから六時半くらいにはマンション行くわ」 長門「……」コク ハルヒ「それじゃあ鍵閉めるわよ?みくるちゃん早く」 みくる「は、はーい」トテトテ ガチャ ハルヒ「よしっと、それじゃ行きましょ」 鶴屋「はいよ~」 ~帰り道にて~ ハルヒ「さすがに夏ね。五時前だってのにこんなに明るい」 鶴屋「日が長くなると一日が無駄に長く感じるよ」 みくる「でも、お洗濯とか出来るし、いいことも多いですよ?」 ハルヒ「みくるちゃん主婦みたいね」 鶴屋「そりゃ仕方ないよ、ハルにゃん。家で主婦やってんだから」 みくる「まだ言うんですかぁ」 鶴屋「あっはっはっはっ!もう止めたげるよ」 みくる「もう!」 ハルヒ「話戻すけど、どうせなら夏が日が短く、冬が日が長く、この方がいいわよね」 長門「それでは生態系がおかしくなる」 ハルヒ「初めっからそうだったらそうゆう進化をするでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「別に、今から変われー!、ってわけじゃないわよ。あくまで希望よ、希望」 みくる(そ、それでも涼宮さんにそう希望されるのは) 長門(非常に困る) 鶴屋「でも、夏の日が長いおかげでいっぱい遊べるんだし、ハルにゃんとしては結果オーライじゃないのかい?」 ハルヒ「う~ん、それもそうね」 みくる「ほっ」 鶴屋「どしたの、みくる?」 みくる「な、なんでもないですよ」 鶴屋「?」 長門「……」トテトテ ハルヒ「それじゃこのへんで別れましょ」 鶴屋「そうだね、明日は覚悟していなよ、ハルにゃん?」 ハルヒ「例え鶴屋さんでもそうはいかないわよ」 みくる「それじゃあまた明日」 ハルヒ「ばいばい」 鶴屋「ばいば~い」フリフリ ハルヒ「それじゃあ有希。またあとでね」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ピンポーン 長門「……」 ???「あたしよ」 長門「知らない」 ???「有希!」 長門「ジョーク。今開ける」 カチャ ハルヒ「毎回毎回よくも飽きないわね」 長門「反応がいい」 ハルヒ「余計なお世話よ。とりあえずあがるわね」 長門「どうぞ」 ハルヒ「お邪魔しま~す。おっ、前より小物が増えてきたわね」 長門「あなたが選んだものがほとんど」 ハルヒ「だって有希全然選ぼうとしないじゃない」 長門「そうでもない」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「よっこいしょっと」バフ 長門「そこは私のベッド」 ハルヒ「知ってるわよ。なんか落ち着くのよね~」 長門「そう」 ハルヒ「なんでかしらね?このまま寝ちゃってもいい?」 長門「構わない」 ハルヒ「いいわけないでしょ、明日のお弁当のおかず買ってこなきゃ」 長門「……」コク ハルヒ「財布は持った?」 長門「持った」 ハルヒ「鍵閉めた?」 長門「閉めた」 ハルヒ「じゃあ行くわよ」トテトテ 長門「……」トテトテ ~移動中~ ハルヒ「有希って小さいくせに歩くの早いわね」トテトテ 長門「あなたが遅い」トテトテトテ ハルヒ「言ったわね」トテトテトテトテ 長門「……」トテトテ ハルヒ「ほら、あたしのほうが早い」トテトテトテ 長門「急ぐ理由がわからない」トテトテ ハルヒ「ぐっ」 ハルヒ「有希って晩御飯まだでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「なんか食べたいものある?」 長門「カレー」 ハルヒ「いつもそれじゃない?作る方としてはもっとレパートリーを増やしてくれた方が、作りがいあるんだけど?」 長門「……」 ハルヒ「って、なんか奥さんの台詞ね、これ」 長門「ハンバーグ」 ハルヒ「いいわよ。それもあたしの得意料理のレパートリーにあるから」 長門「期待する」 ~スーパーにて~ ハルヒ「さて、明日のお弁当の中身どうしようかしら」 長門「カr」 ハルヒ「いい加減にしなさい」 長門「……」 ハルヒ「……そもそも、何を基準で勝ち負けにするか決めてなかったわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「明日みんなで決めればいっか」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「さっきからなに探してるの?」 長門「弁当箱」 ハルヒ「え?」 長門「明日お弁当を持っていくなら箱は必要」 ハルヒ「いや、だから、有希ってお弁当学校持ってたりしたことないの?」 長門「ない」 ハルヒ「……」 長門「?」 ハルヒ「いつもどうしてるの?」 長門「禁則事項」 ハルヒ「は?」 長門「ジョーク」 ハルヒ「はぁ、まぁいいわよ。食材コーナーにはないからあっちに探しに行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「スーパーにしては結構種類あるわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「どれにするの?」 長門「これ」 ハルヒ「それは保存用のタッパーよ、それ以前に大きすぎよ!」 長門「いける」 ハルヒ「ダメよ」 長門「……」ジー ハルヒ「そもそもそれだと鞄に入らないじゃない」 長門「……うかつ」 ハルヒ「有希は大食いだからなぁ……これくらいが妥当じゃない?」 長門「小さい」 ハルヒ「あたしの二倍はあるわよ?」 長門「……わかった」 ハルヒ「なんか子供をあやしてるみたい」 長門「肉体的には同年齢」 ハルヒ「肉体的?有希の方が幼く見えるけど?」ニヤ 長門「……」 ハルヒ「明日のお弁当のおかずはこんなもんね。他食べたいものある?」 長門「カr」 ハルヒ「ないみたいね。それじゃレジ行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「今日もワリカンよ?有希っていつも全部払おうとするんだもの」 長門「作るのは私ではないから」 ハルヒ「じゃあ今日は有希も一緒にやりましょ?」 長門「一緒に?」 ハルヒ「そう、あたしのお手伝い」 長門「いい」 ハルヒ「まったく、どっちのいいよ?」 長門「肯定」 ハルヒ「よろしい」 ~帰宅中にて~ ハルヒ「日が落ちると涼しくていいわね」 長門「……」コク ハルヒ「……あっ、流れ星だ」 長門「……」トテトテ ハルヒ「流れ星が消えるまでにお願い事を、三回言えば願いが叶うかぁ。まず無理ね」 長門「無理」 ハルヒ「なんか短文でないかしら……」 長門「………」 ハルヒ「死ね死ね死ね、とか?」 長門「あなたが言うと笑えない」 ハルヒ「いつもの有希みたいにジョークよ」 長門「あなたのジョークは厄介すぎる」 ハルヒ「そう?」 長門「故に笑えない」 ハルヒ「そもそも笑わないくせに」 長門「あなたには才能がない」 ハルヒ「言ってくれるわね」 長門「言った」 ハルヒ「いつか笑わせてやるんだから」 長門「そう」 ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいまー」 長門「……」 ハルヒ「有希も言いなさいよ」 長門「中には誰もいない」 ハルヒ「いいから」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり。ね、いるときはいるのよ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなのよ」 ハルヒ「とりあえず今日買った食材を冷蔵庫に閉まっておいて」 長門「わかった」 カチャカチャ パタン 長門「閉まった」 ハルヒ「じゃあ少し休んでから、夜ご飯の支度しましょ」 長門「……」コク ピッ ハルヒ「どの番組もつまんないわね」 ピッ 長門「そう」 ピッ ハルヒ「どれもこれも前見た番組のパクリみたいな内容じゃない」 ピッ ハルヒ「TV見ててもつまんないし、晩御飯作りましょ?」 長門「それがいい」 ~食事後~ 長門「ごちそうさま」 ハルヒ「おそまつさま。なんかこの雰囲気にも慣れてきたわね」 長門「?」 ハルヒ「あたしが有希の家に来て、二人でご飯食べて、ゴロゴロして、色々話して、と言っても有希は聞くのが専門よね」 長門「……」 ハルヒ「ふふ。悪くない、悪くないわ。なんか通い妻みたいで変な気分だけど」 長門「悪くない」 ハルヒ「有希も?」 長門「……」コク ハルヒ「そっか。……あたしね、これからも有希とはずっと一緒にいたい」 長門「大丈夫。私が守る」 ハルヒ「ふふふ。私よりちびっ子の癖になに言ってんのよ」 長門「……」 ハルヒ「お風呂ありがと」 長門「構わない」 ハルヒ「明日はお弁当作んなきゃだし、早く寝ましょう」 長門「……」コク ハルヒ「あたしは髪乾かしてから寝るわ。おやすみ、有希」 長門「おやすみなさい」 ハルヒ「……」 ~翌日~ ???「……ルヒ、……う朝、起……」 ハルヒ「う~ん」 ???「もう……、……て」 ハルヒ「あ、あとごふん」 ???「わかった」 ハルヒ「……ん」Zzzz ???「いい加減に起きて」ポカ ハルヒ「……えぇ?ふわぁ~あ、おはよう有希」 長門「おはよう」 ハルヒ「なんか有希のうちって安心して寝れるわ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなの。ところで今何時?」 長門「午前八時ちょうど」 ハルヒ「……え?」 長門「午前八時ちょうどと言った」 ハルヒ「……!や、やばいじゃない!約束まで二時間しかない!」 長門「正確には一時間五十八分三じゅ」 ハルヒ「やばいわ!ご飯に火入れなきゃ!」 長門「もう入れた」 ハルヒ「でかしたわ有希!」 長門「当然」 ハルヒ「それじゃあ、すぐ顔洗ってくるから台所で待ってて!」 長門「わかった」 ~駅前にて~ 鶴屋「おはようハルにゃん!」 みくる「おはようございます」 ハルヒ「おはよう、ほぼ同時についたわね」 鶴屋「そうだね!ちゃんとお弁当は持ってきたかい?」 ハルヒ「ばっちりよ!ね、有希?」 長門「……」コク ハルヒ「それで今日はどこ行くの?」 鶴屋「ふふふ。実はこの間、こんなものを貰ったのさ」バッ みくる「チケット、ですか?」 鶴屋「そうさ!五月の半ばにオープンしたばかりの、あの遊園地のチケットだよ!」 ハルヒ「あの遊園地!CMとか見て興味があったのよね、実は」 みくる「あ、あそこってジェットコースターが目玉なんですよねぇ……」 鶴屋「んふふふふ。頑張ろうね、みくる♪」 みくる「ひぃ」ビク ハルヒ「あれ?遊園地ならお弁当いらないんじゃないの?」 鶴屋「あそこの飲食店って、めがっさ混むみたいなんだよ」 ハルヒ「そうゆうことか」 鶴屋「そう、せっかく遊びに行くんだから、少しでも遊ばないとね」 ハルヒ「賛成だわ。それじゃあとっとと行きましょ!」 鶴屋「おー!」 ~遊園地にて~ ハルヒ「……これは」 みくる「……想像以上に」 鶴屋「……人だらけだね」 長門「……うるさい」 ハルヒ「なにはともあれ……遊ぶわよ!有希、あれ、あれ乗ろ!」グイ タタタッ 鶴屋「ありゃ、行っちゃた」 みくる「ですね」 鶴屋「あたしたちも行くよ!」 みくる「は、はぁい」 タタタッ ワーー! みくる「こ、これに」ブルブル キャーー! みくる「の、乗るんですか?」ブルブル ギャーーーーー! ハルヒ「だってこれが目玉なんでしょ?みくるちゃんが自分で言ってたじゃない?」 鶴屋「観念しなよ、みっくる♪」 みくる「そ、そんなぁ」ブルブル 長門「面白そう」 みくる「長門さんまでぇ~」 ハルヒ「女は度胸よ!」ガシッ みくる「ひ、ひぇ~」ズルズル みくる「ど、どんどん高くなってきましたよ?」 みくる「レ、レ、レ、レールが、み、見えませんよ?」 みくる「え?落ち……キャアァァッァァァァァ!!!」 みくる「わぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」 みくる「ひゃぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!」 みくる「……、……。……」 ハルヒ「いやー!凄かったわね、有希!」 長門「ユニーク」 鶴屋「たしかにみくるはめがっさユニークだったっさ!ほんとに悲鳴上げるんだもん!あっはっはっはっはっは!」 みくる「す、少し、うっ、や、休ませてくださぃ」 ハルヒ「何言ってるの、まだ一つ目じゃない!次行くわよ、次!」 みくる「こ、これって」 長門「ホラーアトラクション」 ハルヒ「さぁ行くわよ!」 みくる「む、無理ですよぉ~」 鶴屋「結構怖いみたいだよ、ハルにゃん」 みくる「あれ?」 ハルヒ「そうなんだ、でもどんと来いよ!」 みくる「わ、わたし入らなくていいんですかぁ?」 ハルヒ「こういうとこって本物が出たりするらしいじゃない?」 みくる「あ、あの~」 鶴屋「TVで見たことあるっさ!」 ハルヒ「出てきたら捕まえてやるわ!ね、有希」 長門「……」コク スタスタ みくる「置いてかれた……。わ、わたしもい、行きます!」トテトテ ハルヒ・鶴屋(作戦通り!) みくる「ふぇ~、ま、真っ暗ですよぉ」ブルブル みくる「ひゃ!い、今向こうに、だ、誰かいましたよ~」ブルブル みくる「え?後ろ?……ひぃゃぁぁあああっぁぁぁぁ!!!」パタパタ みくる「きゃ!ひっ!」コテン みくる「……うぅ、うぅ、うぅぅぅ」ポロポロ ハルヒ「ご、ごめんね、みくるちゃん。まさかこんなに怖がるとは思ってなかったのよ」 みくる「ひっく、ひっく」ポロポロ 鶴屋「悪ノリしすぎたよ、あたしからもごめんね?」 みくる「うぅっ、も、もう大丈夫です、ひっく」グス 長門「ユニーク」 ハルヒ「こら!有希!」ポカ みくる「もうそろそろ、お昼だしお弁当にしませんかぁ?」 鶴屋「そうしよ!あそこの芝生を陣取ろうよ!」 ハルヒ「賛成!」 長門「……」グゥゥ トテトテ ~芝生にて~ ハルヒ「昨日話した勝負のこと覚えてるわね?」 鶴屋「もちろんっさ!」 ハルヒ「基準は見た目と味でいいわよね?」 みくる「はい」 鶴屋「一生懸命作ったからね。この勝負いただいたよ!」 ハルヒ「ふふふ、ではいざご開帳!」 パカッ 鶴屋「あ」 みくる「そんなぁ~」 ハルヒ「こんなのって」 長門「……」 ハルヒ「……そういえば鞄持ったままアトラクション回っちゃたわね」 長門「グチャグチャ」 鶴屋「これはさすがにショックだよ……」 みくる「でも、形は悪くても食べられますから」 ハルヒ「わかってる、わかってるわ」 鶴屋「それでも、苦労が水の泡ってのはねぇ……」 長門「……」モグモク ハルヒ「勝負はお預けね……」 ~食事後~ ハルヒ「それじゃあ、あたしと鶴屋さんでフリーフォールみたいの乗ってくるわね」 鶴屋「みくるはそこのベンチで休んでて!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「有希も来る?」 長門「……」フルフル ハルヒ「そう、それじゃあそこであたしたちの勇姿を見てなさい」 長門「……」コク みくる「ふぅ、お二人とも元気ですねぇ」 長門「……」コク みくる「……」 長門「……」 みくる(き、気まずいよぉ~) 長門「朝比奈みくる」 みくる「は、はひ!」 長門「?」 みくる「なんでもないです、続けてください」カァァァ 長門「質問がある」 みくる「質問ですか?」 長門「この先はどうする?」 みくる「え?多分ご飯でも食べにいくんじゃないですか?」 長門「違う。今後の動き。私は涼宮ハルヒの力の観察」 みくる「わたしは……監視です。もとよりそれが目的ですから」 長門「なぜ監視を?」 みくる「禁則事項です」 長門「この後世界は、涼宮ハルヒはどうなる?」 みくる「禁則事項です」 長門「今まで起きてきた出来事は全て予定通り?」 みくる「禁則事項です」 長門「そう。ならいい」 みくる「……。長門さんは観察が目的なんですよね?」 長門「……」 みくる「観察の対象と仲良くなるのは、いいことなんですか?」 長門「私だけではないはず」ジー みくる「わたしはそんなつもりではなかったんです!でも長門さんは涼宮さんとは……親友なんですよね?」 長門「そう」 みくる「わたしは、わたしはこんなはずじゃなかった……なかったんです……」 長門「?」 みくる「……これ以上は言えません」 長門「そう」 みくる「長門さんはどうするんですか?」 長門「変わらない。いつも通り。しかし」 みくる「?」 長門「私という個体は涼宮ハルヒのそばにいたいと思っている」 みくる「……」 長門「これは私の意志。涼宮ハルヒは私を必要としてくれている」 みくる「……そうですよね」 長門「それに答えるのは親友として当然」 みくる「……わたしは」 長門「古泉一樹に新たな鍵は私だと言われた」 みくる「古泉君が?」 長門「そう。そのことでどうなるかはわからない。ただ、涼宮ハルヒに危害を加えるなら、誰であっても容赦しない」 みくる「……わたしに関しては大丈夫です。そんなことをする理由がありませんから」 長門「そう」 みくる(……わたしは、わたしはただの監視者だから……これからもただ見ているだけの……) 鶴屋「みっくる~!いや~めがっさすごかったよ~!こう、ビューンとさ、ってみくる?」 みくる「……え?」 鶴屋「なんか元気ないよ?大丈夫?」 みくる「だ、大丈夫ですよぉ」 ハルヒ「どうせ有希が変なこと言ったんでしょ?最近辛口なのよね、このコ」 みくる「ち、違いますから、はしゃぎすぎて気分が悪いだけですよ」 鶴屋「無理しちゃダメだかんね?」 みくる「もう平気ですよ」ニコ ハルヒ「それじゃあ激しいアトラクションは一旦休憩にしましょ」 鶴屋「そうっさね。……さっきまでみくるは長門ちゃんと話してたの?」 みくる「はい。長門さんとあんなにおしゃべりしたの初めてです」 ハルヒ「有希と会話が続くなんて凄いわね。あたしですら難易度が高いのに」 鶴屋「なに話してたの?」 みくる「長門さんとの秘密なんです」 ハルヒ「有希、教えなさいよ~」 長門「禁則事項」 みくる「……」 鶴屋「……。みくる、なんか飲み物買ってくるけど何がいい?」 みくる「ありがとうございます。お茶がいいです」 鶴屋「わかったよ。長門ちゃん、一緒に買いにいこ?」 長門「……」コク ハルヒ「有希、あたし炭酸がいい」 長門「わかった」 ~自販機前にて~ 鶴屋「……ねぇ、長門ちゃん?」 長門「何?」 鶴屋「みくるに何言ったの?」 長門「質問をしただけ」 鶴屋「質問?どんな?」 長門「言えない」 鶴屋「なんで?」 長門「言えない」 鶴屋「なら、単刀直入に聞くけど、……みくるをいじめてたのかな?」 長門「……」フルフル 鶴屋「信じていいの?」 長門「どちらでも」 鶴屋「……」 長門「……」 鶴屋「……うん、疑ってごめんよ?みくるってあんなんだからさ、友達として不安だったんだよ」 長門「そう」 鶴屋「長門ちゃんだって、ハルにゃんのこと見捨てられないでしょ?」 長門「もとより見捨てない」 鶴屋「だよね、とはいえ、疑ってほんとにごめんね」 長門「いい。ただ」 鶴屋「なに?」 長門「今小銭がない」 鶴屋「先輩にたかる気かい?」 長門「違う、悪いと思っているなら、お金を貸して欲しい」 鶴屋「いいよ、後輩のぶんくらいお姉さんが買ったげる♪」 長門「感謝する」 鶴屋「はい、みくる」 みくる「ありがとうございます」 ハルヒ「……抹茶の炭酸ってなによ?」 長門「あった」 ハルヒ「炭酸と言ったのはあたしだけど……これはないわよ」 長門「飲まず嫌い?」 ハルヒ「うっ……、いいわ、飲んでやるわよ!」ゴク 鶴屋「ど、どお?」 ハルヒ「……」フルフル 長門「ユニーク」 ハルヒ「……デコピンよ」ピシ 長門「……」ナデナデ ハルヒ「鶴屋さん、今日はありがとね」 鶴屋「なに、いつもみくるがお世話になってるからね。そのお礼さ♪」 みくる「ふふふ」 ハルヒ「あたしだってみくるちゃんにお世話になってるわよ?」 みくる「涼宮さん……」 ハルヒ「コスプレとか、部室の掃除とか、お茶汲みとか」 みくる「え、えぇ~」 鶴屋「先輩をパシリ扱いとはいけない子だね?こうしてやる!」 ハルヒ「や、やめて、鶴屋さん、アハハ、うそ!冗談だから!アハハちょ、くすぐったいってば~」 鶴屋「参ったか!」 ハルヒ「……このあたしが、はぁーはぁー、やられて、黙ってる、とでも?」 鶴屋「ん?」 ハルヒ「えい!」 鶴屋「ハルにゃん、ひ、卑怯だよあっはっはっは、そこは、はんそ、反則だよ、あっはっはっは」 ハルヒ「やられたらやり返さないとね」 鶴屋「覚えてろよ~」 ハルヒ「返り討ちにしてやるわ!」 鶴屋「せっかくだしこの後ご飯でも食べ行く?」 ハルヒ「そうね。どこ行く?」 長門「……」クイクイ ハルヒ「ん?どしたの有希?」 長門「あれ」 ハルヒ「あれ?」 鶴屋「あれはバイキングだね!」 みくる「も、もう怖いのいやですよぉ」 ハルヒ「みくるちゃん、ただの食べ放題よ。有希あそこがいいの?」 長門「……」コクコク ハルヒ「二人ともあそこでいい?」 鶴屋「あたしは構わないっさ!」 みくる「大丈夫です」 ハルヒ「それじゃあ、行きましょっか」 長門「……」トテトテ ~帰り道にて~ 鶴屋「いや~めがっさお腹いっぱいだよ」 長門「満腹」ケプ 鶴屋「女四人がバイキングでがっついてる光景は、シュールだったろうね」 ハルヒ「がっついてたのは鶴屋さんと有希だけでしょ?あたしとみくるちゃんは腹八分よ」 みくる(それでも食べすぎちゃいました……) 鶴屋「それじゃあ、ここらでお別れだね」 ハルヒ「そうね、今日は楽しかったわ。ね、有希?」 長門「……」コク 鶴屋「そりゃ良かった。誘ったかいがあったってもんだよ」 ハルヒ「じゃあまた学校でね。鶴屋さん、みくるちゃん」 鶴屋「バイバイ」 みくる「あ、あの、長門さん」 長門「何?」 みくる「少し、少しだけいいですか?」 長門「構わない」 みくる「お二人は少しだけ待っててください」 鶴屋「わかったっさ」 ハルヒ「有希はあたしのだから持って帰っちゃダメよ」 鶴屋「おっ、ラブラブだねぇ~」 ハルヒ「ジョークよ、ジョーク」 みくる「ちゃんとお返ししますから」ニコ 長門「何?」 みくる「本当はこんな事を言うのは禁止されています」 長門「……」 みくる「でも、でもわたしも長門さんも、望む望まないに関わらず、主要人物の一人になってしまいました」 長門「……結果的に私は望んだ」 みくる「そ、それは長門さんの場合です!」 長門「わかっている」 みくる「……同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください」 長門「……何故?」 みくる「……この間私向けにそういう指令がきました。内容は知りません」 長門「禁則事項では?」 みくる「……話は以上です。また」スタスタ 長門「……」 ハルヒ「それでみくるちゃんはなんだって?」 長門「秘密」 ハルヒ「仕方ない、くすぐってでも吐かせてやるわ」 長門「無駄」 ハルヒ「どうよ!ほらほら!」 長門「まるで無駄」 ハルヒ「この不感症め!」 長門「なんとでも」 ハルヒ「あぁ、つまんなーい」 長門「そう」 ハルヒ「まぁ、いいわ。帰りましょ」 長門「?」 ハルヒ「~♪」 長門「あなたの家はこっちではない」 ハルヒ「あれ?言ってなかったけ?あたしの家今誰もいないから、有希の部屋泊まるって」 長門「初耳」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「一泊も二泊も変わんないでしょ?さ、帰るわよ」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「……ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「た・だ・い・ま」 長門「……ただいま」 ハルヒ「違う!あたしがただいまって言ったら、有希はおかえりでしょ?」 長門「……」 ハルヒ「もう一度よ。ただいま」 長門「おかえり」 ハルヒ「次は有希」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり」 ハルヒ「あぁ~楽しかったぁ~、けど疲れたぁ~」 長門「六時間遊んだ」 ハルヒ「あれ?そんなもんだった?」 長門「充分」 ハルヒ「そうね、これ以上疲れたら明日筋肉痛になっちゃうわ」 長門「そう」 ハルヒ「有希は平気?」 長門「……」コク ハルヒ「文学少女のくせに丈夫ね」 長門「……そう」 ハルヒ「実はね」 長門「?」 ハルヒ「今日の団活中止になって嬉しかったの」 長門「何故?」 ハルヒ「一応表には出さないようにしてるけど、まだちょっとあいつと一緒に行動するのが、ね」 長門「……」 ハルヒ「そりゃ、盛大にふられてるもの、気にしてないっていったらウソじゃない?」 長門「そう」 ハルヒ「やっぱり気になっちゃう……ほんとに恋ってめんどくさい」 長門「……」 ハルヒ「未練がましいのなんてらしくないわね」 長門「……」コク ハルヒ「今の話忘れて!お終いお終い!さぁ明日も休みだし!今日こそ夜通し遊ぶわよ!」 長門「構わない」 ハルヒ「しっかり朝日を拝んでやるんだから!」 長門「そう」 ハルヒ「……」Zzzz 長門(まだ十二時) ハルヒ「……」Zzzz 長門「……」 ハルヒ「……ん……いや」グス 長門「?」 ハルヒ「……ゆ……き」グス 長門「……何?」 ハルヒ「おねが……いかな……いで」グス 長門「私ならここにいる」ギュ ハルヒ「……ん……」Zzzz 長門「……」ギュー --同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください-- 長門(どこにも行かない。ここが私の場所) ~To Be Continued~
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採集 他マップの秘境で取れる玉から合成できるアイテムをはめ込むと、その先で採集できるようになる。 採集できるアイテムは、砂漠の採集、遺跡の採集、何も採集できないの三つからランダム。 例えば採集してみて砂漠の採集ポイントと同じだったら、その回は全てのポイントが砂漠の採集ポイントになっている。 採集できなかったらその回は全く採集できない。 最初の採集ポイントに行って、望む採集内容じゃない場合は出直した方がいい。 秘境は砂漠の玉と遺跡の玉をはめ込んだ先にあり、採集ポイントがたくさんある。 秘境のみで採集できるアイテムはない様子。 +... 1 2 3 食べられる草 パニック虫 謎の植物 やる気花 白い砂 適応ミミズ 小さいキノコ 鮮やか草 デキ草 遺跡の碑文石 透明草 チカラデ草 不思議な液体 耐水草 マモレ草 何かの血結晶 ハヤクナリ草 ガンバリスの糞 ゲキレツ蝶の卵 不思議な液体 遺跡の碑文石 黄金バッタ 白い砂 黒色の玉 モンスタードロップ 種類が多いので、レアドロップ集めがかなり大変。 夜鳥の尾、神秘の木材あたりはそこそこの数が必要になる。 +... 名前 ドロップ1 ドロップ2 サキュバス 鮮やかな羽 カーミラ 漆黒の羽 フルタクスアーマー フルタクスの腕 形状記憶合金 飛び去る死神 死神の角 監視者 監視者の眼 不明物質 サイクロプス サイクロプスの体液 サイクロプスの体毛 錆びた鎧 錆びた兜 錆びた剣 コピスヴィーナス コピスの台座 神秘の木材 ハイウェイライダー 高速車輪 荒れ狂うオーブ 彷徨い魔人 魔人マント ガラスの粉 鉄壁の衛兵 傭兵の盾 傭兵の剣 遺跡の掃除屋 掃除屋の口 掃除屋の触角 機械人形α 人形の服 機械人形β 1トン岩石 人形の服 機械人形γ 人形の心 1トン岩石 夜鳥 鮮やかな羽 夜鳥の尾 スキュレー 石爪 勇気のかけら モーガン モーガンの角 ボス 動き出した破滅者 未知の塊 石爪 破滅を約束する者 荒れ狂うオーブ 勇気のかけら
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はじめに ・文字サイズ小でうまく表示されると思います ・設定は消失の後くらい ・佐々木さんとか詳しく知らないので名前も出てきません ・異常に長文なので暇な人だけ読んで欲しいです ・投下時は涼宮ハルヒの告白というタイトルで投下しましたが、すでに使われていたので変えています ・誰時ってのは黄昏の旧漢字……らしいです 多分 では、のんびりとどうぞ 学校行事に書き込まれていたテスト週間も無駄な努力と時間の経過によって無事終了し、晴れ晴れとした寂しさだけが残った週末。 テスト期間にあった祝日をむりやり土日に繋げてできた取って作った様な連休に、テストの結果に期待しようも無い俺は心の安息を求めていた。 この不自然な形の休日に教師といえども人間であり、生徒同様たまにはまともな休みが欲しかったなんていう裏事情には気づかない振りをするのが 日本人らしくて好ましいね。 しかし、テストが帰ってきて偏差値などという価値基準が俺に付与されれば、日本経済の実質成長率の如く一向に上がる気配を見せない俺の成績に 母親は表情を暗くするのは想像に難しくない。 でもまぁ、今は人事を尽くした者として大人しく天命を待てばいい。 休むべく作られた休日ってのを謳歌してな。 放課後の帰り道、ハルヒによって明日の休日初日から呼び出されているという事を踏まえても俺はずいぶんのんびりとしていた。 それは長門の一件が解決したばかりだったという事もあるが、最近のハルヒはあまり無茶をしなくなっていたってのもある。 ……そんな俺の考えは煮詰めた練乳並みに甘かった事を、俺は数日後に思い知る事になり今に至るというかなんと言うべきかね。 ともかくだ、天命って奴は人事を尽くしたくらいじゃ変えられないらしいぞ。 涼宮ハルヒの誰時 「急に呼び出したりしてすみません」 そう言って軽く頭を下げた古泉の顔には、驚いた事にいつもの営業スマイルがなかった。 そもそも目的地があるのか無いのか、もしくは現在考え中なのかすらも定かではない黒塗りタクシーは俺と古泉を後部座席に乗せて軽快に夜の街を走っていく。 この車に乗るのも古泉に呼び出されるのも久しぶりの事だ。 最近はハルヒも落ち着いてきたと思ってたんだが、また何かあったのか? 一応はそこそこに一般常識があるはずの古泉の事だ、俺を深夜に呼び出す理由なんてハルヒ絡み以外には想像つかない。 「当たらずも遠からずって所ですね……これからお話する事は確定した事実ではなく、あくまで仮定に過ぎないという前提で聞いてください」 随分もったいぶるじゃないか。わかった、仮定の話だと思って聞くよ。それで? 「僕が以前お話しした、涼宮さんに望まれたがゆえに僕達の様な超能力者が生まれたという話は覚えていますか?」 ああ。残念ながらなんとなくは覚えている。 あの夢物語の事だよな、この間妹が見せにきた絵日記に似たような内容があって焦ったぞ。 「あれから我々も世界の破滅を防ぐ為にと色んな勢力と情報交換を繰り返してきました、その結果一つの結論に辿り付いたんです」 結論ねぇ。聞こうじゃないか。 俺のリアクションに期待でもしていたのだろうか?古泉は次の言葉をやけに芝居がかった感じで言い切った。 「あなたです」 は? 「あなたが全ての始まりであり終わり。それが機関の暫定的な結論です」 ……古泉。 「はい」 そんな冗談を言う為に俺をわざわざこんな深夜に呼んだのか? 俺はこれから、明日の休日にハルヒが無茶をするのに備えてぐっすりと寝ってやる所だったんだぞ。 「冗談です、と言いたい所ですが機関は本当にそう考えているんです。僕としてはまだ半信半疑といった所ですが、信頼すべき部分もあると」 やれやれ、俺はただの一般人だって保障したのは確かお前じゃなかったか? 「あの時点では確かにそうでした、しかしその後の貴方の行動によって過去に新たな確定事項が出来た事により、事情は変わってしまったんです」 何を馬鹿な……まて、過去が何だって? 「はい。貴方は朝比奈みくると過去へ行き、過去の涼宮さんと出会った……そうですね」 あれ、お前にその事を言ったか?……まあいい、確かにそうだ。 「その出会いそのものは問題ではありません。問題なのは、あの時貴方が会った涼宮さんは、それより前の時間にはどこにも存在していないんです」 古泉、日本語で頼む。 「僕も詳しい事はわかりませんが、推論で言えば貴方が過去へ行った事で涼宮さんは誕生した。つまり、涼宮さんは貴方が創り出したという事になりますね」 営業スマイルを何処かに置き忘れたらしい古泉は、真面目な顔でそう言い切る。 ……お前、正気か? 「僕はいつでも、そこそこに正気のつもりです」 だったらよけいに性質が悪い。 長門でもハルヒでもない俺が、人間なんて作れると思ってるのかよ。 「確かに最後の部分は僕の推測です。ですが、機関が接触している長門さんとは別の統合思念体の組織によって、涼宮さんがあの日校門の前で 貴方に出会うより前の時間に存在していない事は確認されているんです。さらに言えば、我々機関の人間がこの超常の力を手に入れたのも 貴方が涼宮さんと過去で出会った日と同じ日。今となっては確認する方法はありませんが、貴方が涼宮さんに北高であったあの日まで、 涼宮さんはどこにも存在していなかったのかもしれませんね」 これ、笑う所か?そう思いたいのだが、残念ながら古泉の顔は至極真面目ときてやがった。 わかったわかった、お前のその意味不明な話が全部正しいとするさ。それで、何故そんな話を俺にする?論理ゲームなら長門とやってろよ。 お前は以前、ハルヒには何事も無い人生を送って欲しかったと言ったじゃないか。 最近はあいつも大人しくなってきたのに、俺におかしなロジックを吹き込んでまでわざわざ不確定事項を探してどうするんだよ。 「……確かにそうですね、僕が話している事は自分でもとても危険な事だと思います。ですが、その先に待つもっと大きな危険を回避する為に 貴方にはどうしても話しておかなければならない。このまま、僕の話を最後まで聞いてもらえればその事についてもご理解頂けると思います」 その先に待つ危険ねぇ……。 俺は明日、ハルヒが何を言い出すか考えるだけで手いっぱいなんだがな。 「統合思念体によれば、数年後のこの世界に朝比奈みくるは居ません」 ……それは……寂しいが仕方ないんじゃないのか?忘れがちだけどあの人は未来人なんだ。 っていうかそれは秘密にしておいて欲しかった。 でもまあ数年後って事は、高校に居る間は一緒に居られるって事か……そういえば朝比奈さんは俺達よりも先に卒業する事になるが、進学するんだろうか? 俺のお気楽な考えをよそに、古泉は深刻そうな口調で続ける。 「それだけではありません、長門さんも僕も、涼宮さんも居ないんです」 は? って、今日2回目か。 「SOS団のメンバーで最初に涼宮さんと出会ったのは貴方。SOS団が発足するきっかけになったのも貴方。数年後のこの世界に残っているのも貴方だけ。 ここまでくれば疑う余地もなく全ての原因は貴方である。以上が機関の結論です」 ちょっと待て、今話してる事は本当なのか? 「…………」 古泉。 俺の問いかけに、何故か古泉は苦しそうな顔で視線を外した。 「僕からこれ以上お話しても貴方は理解も納得できないと思います。ここから先は長門さんに聞いてみてください」 長門? なんでここで長門の名前が出るんだ? 「我々の掴んだ情報通りならば、長門さんにも未来の自分と同期する事ができるはずです。それを使えば、何年先まで自分が存在しているかがわかるはず」 ……そこまで知ってるのか。 久しぶりに嫌な予感がする。何かが起こりそうだが、結局俺には何もできないで終わる事になりだというなんとも疲れる予感だ。 「混乱させてしまってすみません、僕も正直心の整理ができそうにありません。ですが、このまま何もしないで破滅の時を迎えるよりは、 とにかく行動したほうがいいと思ったんです」 まるで朝倉みたいな事を言うんだな。 「え?」 いや、こっちの話だ。気にするな。 会話が途切れるのと同時、まるで事前に何度もリハーサルをしたかのようなタイミングでタクシーは長門のマンションの前に止まった。 深夜のマンションの廊下は当然ながらまるで人の気配がしない。 もしも巡回中の警備員に出くわして、何をしているのかと聞かれたらなんて答えればいいんだろうね? 超能力者の予言による世界崩壊の危機を回避するための助言を宇宙人に聞きに来たんです。とでも言えばいいのか? まったく、間違いなく救急車を手配してもらえるだろうよ。 以前長門から聞いた暗証番号を使ってマンションに入ることができた俺は、そのまままっすぐ長門の部屋へと向かった。 冷たいインターホンを押すと、呼び出し音の後には無音の静寂が続く。 その無音の中に長門の気配を感じて、俺はマイクに向かって話しかけてみた。 俺だ、夜遅くにすまないがちょっと話をさせて欲しい。 もしかして寝てるか?普通なら誰だって寝てる時間だしな。 数秒後、インターホンには何の返事も無いままで部屋のロックは小さな音を立てて外れた。 扉の向こうに居た長門は深夜だというのに何故か制服をきたままだった。……なんでだ? まあいい、深夜だし古泉ならともかく長門に迷惑をかけるのは気が引ける。 部屋にあがらせてもらった俺はさっそく、さっき古泉から聞いたとんでも話をそのまま長門に伝えた。 と、いう事なんだが……。古泉が疲れてるだけだよな? 個人的には「妄想、精神的疲労による軽度の錯乱状態」って返答を期待したいんだがどうだろうか? しばらくの沈黙の後、 「……古泉一樹の所属する機関は、確かに私以外の統合思念体の端末ともコンタクトしている。統合思念体の中には未来の情報を伝える事で、 自立進化に関わる不利益を回避しようとする派閥が存在する」 そんな事ができるっていうか、許されるのか? お前の上司ってのがそこまで無茶苦茶な連中だとは思ってなかったぞ。 「許されない。未来への干渉は、結果的に得られるはずだった自立進化の可能性を消失してしまう可能性がある」 何にしろ自分中心って事か 「そう。本当に統合思念体が未来の情報を漏らしたとしたら、それは自にとっての危機的状況を回避する為に他ならない」 ……統合思念体の危機?そうか、以前長門は。 「以前私がそうしたように、統合思念体の存在が何者かに消去されその状態が回復される事がない未来を見つけたのかもしれない」 ……それってつまり、自分が消されそうになるならその歴史を改竄する事もありえるって事なんだろうか? それならあの時の長門も何かされてもおかしくなかったって事じゃ。 あ、それとも結果的に自分が元通りになるってわかってたから何もしなかった……駄目だわからん。今はとにかく現状の事だけ考えよう。 長門、古泉が言った未来との同期ってのをしてみてくれないか? 「……」 肯定も否定でもない、無機質な視線が俺を見つめている。 あいつは数年後の未来にお前も朝比奈さんも、古泉もハルヒも居ないって言った。つまり十年以上先の未来のお前と同期できたら、あいつの言ってた事は 全部思い過ごしって事だろ? 「……申請してみる」 すっと長門の視線が天井の特に何もないはずの部分に固定され、俺はしゃみせんが時々そうしているのを思い出していた。 あれって何を見てるんだ?もしかして、猫はみんな情報思念体とアクセスできる……なわけねーか。いや、どうだろう。 数十秒程の沈黙の後。 「だめ」 その返事は俺を安心させる物ではなかったが、とりあえず不安にさせるものでもなかった。 しかし、問題はこの後に続く言葉だった。 「一年後の未来に同期すべき私は存在しない。更新できたのは、3日後の自分まで」 古泉のとんでも話より、もっととんでもない話が俺を待っていたらしい。 「私の存在は3日後の21時57分に消失する。その時刻には、朝比奈みくる、古泉一樹、涼宮ハルヒの3人もこの世界に存在していない」 3日後って……数年先じゃなくて今週のか? 「そう。貴方だけが残る」 ……まてよ、そんな事になったら未来の朝比奈さんはどうなるんだ?3日後に今の朝比奈さんが消えてしまったら……あ、そうか。 3日以内に未来に帰ってしまうだけって事だよな。 朝比奈さんが生まれるのがもっと先の未来なら、数年後の世界に朝比奈さんが居なくても不思議じゃない。 「違う。朝比奈みくるの存在その物が消える」 存在その物が消えるって…… 「この時間軸に存在する朝比奈みくるも、異時間同位体の朝比奈みくるも確定した未来の存在ではない。このまま時間が続けば、存在する事になったはずの 暫定的な存在」 待ってくれ、俺にはさっぱり理解できん。 ……そうだ長門! お前は自分が消える直前までに起きる事をみんな知ってるんだな? 俺の言葉に長門は頷く。 ルール違反を指摘したばかりだとか言ってる場合じゃない、これが非常事態じゃないなら何が非常時だっていうんだ! だったらそれを教えてくれ!それさえ分かれば危機が回避できるから、未来の情報を流したりするんだろ? 「できない」 できないって……。 「貴方が異時間の情報を古泉一樹から聞いた時点で、歴史に差異が生まれた。21:57に消失する未来も予測される未来で確率が高いと思われる一つであり 確定された物ではない。これから先に起きる出来事は、もう誰にもわからない」 ……なんとなく、居るんじゃないかと思ってましたよ。 「キョン君」 教えてください、知っている事を全部。 「はい、私に話せる全てをお話します。これが、キョン君と会う最後なんだから」 長門のマンションの外で俺を待っていたのは、寂しそうな顔をした大人の朝比奈さんだった。 何も言わない朝比奈さんについていくと、やがていつも俺達が集まる時に使っている駅前の小さな広場に辿り着く。 駅前は深夜だという事を考えても不思議なくらい人影もなく、町は俺達以外に誰もいなくなってしまったのではないかと思う程に静まり返っていた。 「明日の朝、ここにみんなが揃って涼宮さんがSOS団の解散を宣言します」 は? 今日は何回驚かされればいいんだ?……そろそろ勘弁してくれ。 朝比奈さん……それってマジなんですか。 俺の言葉に、朝比奈さん(大)は何故か微笑む。 「はい、大マジです。そして、キョン君は涼宮さんに告白されて恋人になるの」 は? 思わずまた大きな声が出てしまった俺を見て、朝比奈さん(大)は嬉しそうに……って今なんて言いました? 「……ショックだったな。なんて、今更ですけど」 や、やだなぁ。こんな時に冗談言わないで下さいよ。 動揺する俺を前に、朝比奈さんは淡々と話し続けた。 「涼宮さんの告白のセリフもキョン君の答えも全部知ってます。知ってるのに、私は存在しなくなるなんて不思議な感じ」 不思議な程、朝比奈さん(大)の言葉は落ち着いていて、それとは反対に俺は状況把握に必死だった。 えっと、みんなが数年後に消えてしまうと思ったらそれは実は3日後で、それはよくわからない宇宙理論で回避できないらしくて、SOS団が明日解散して ハルヒが俺に告白する? どこから突っ込めばいいんですか、これ。 「そして3日後、2人は初めて結ばれて……みんな消えるの」 追い打ちかけないでくださいよ! と叫びたかった。 言葉ってのは凄いな、この時の俺はハルヒに襟首を引っ張られて机に頭を叩きつけられた時よりも動揺していた自信がある。 何で、何でそんな事になるんですか?意味がわかりませんよ。 「それは……私には言えないの。ごめんなさい」 自分が消えるかもしれなくても言えない事ってなんですか?なんて言える空気じゃない。 寂しそうな声で謝る朝比奈さん(大)にそれ以上何を聞いていいのか、俺にはわからなかった。 ――どちらからともなく木製のベンチに座った俺達は、暫くの間無言だった。 でもまあ悪くない沈黙だったと思う。 俺は少しでも頭の整理がしたかったし、朝比奈さん(大)も何か考えているようだった。 ベンチの冷たい感触が無くなってきた頃、 「……キョン君、子供の頃の思いって純粋だと思わない?」 急にどうしたんですか? 優しい声で話す朝比奈さん(大)は星も見えない夜空を見上げたまま、話し続けていく。 「架空の存在ですら心から信じられる、子供ってそんな純粋な心を持ってる。キョン君も信じてたのよね?宇宙人に未来人、正義の味方に超能力者。 年を重ねて現実を知るにつれてそれを信じなくなってしまったけれど」 ……あ、あれ?俺、そんな事話しましたっけ?やだなぁ、忘れてください。 孤島で飲んだ時にもで言ったのか?喋った覚えはないんだけど。 「そんな存在居るわけがない……でも少しは居て欲しい。子供の頃の貴方では想像できなかった現実的な部分まで想像できるように成長した貴方は、 北高校に入学したあの日もそう願っていた。超常的な存在の近くで色んな出来事に巻き込まれながらも見守る、そんな一般市民になりたい、と」 違う、そんな事まで俺が朝比奈さんに言うはずがない。俺だって今、言われるまで忘れてた事だ。 なんで、それを……。 「キョン君、貴方は心から願ってしまった。そんな超常的な存在……もうわかっちゃったよね?涼宮さんみたいな人に出会いたいって。心当たりは あったと思うの。神様みたいな力を持っている涼宮さんが、貴方の後ろの席に居たのは偶然?あの席順でなければ、キョン君はきっと涼宮さんに話し かける事はなかった」 それは、たまたま50音順で座ったからじゃ。 「たまたま同じ学校に進んで、たまたま同じクラスになって、たまたま50音順で後ろの席になった女の子がキョン君の望んでいた神様みたいな女の子。 しかもその子にたまたま選ばれた……これはもう偶然とは言えないですよね。どこかに必然が混じってるんです」 ……もしかして、ハルヒが俺を前の席にしたって事じゃ? 「涼宮さんが探していたのは北高の制服を着ていたジョン・スミス。中学校の時に高校生のジョン・スミスを見て同じクラスになれると思うはずがないし、 万一矛盾を無視してそれを望んだとしても、その名前を本当に信じていたならスミスさんでは並びで言うと涼宮さんの後ろに居るはず。でも実際に 後ろの席に居たのは谷口君でした。そして貴方もずっと感じていた疑問、何故宇宙人でも未来人でも超能力者でもない普通の高校生のキョン君を 涼宮さんは選んだのか?さっき話した、たまたまの中にある必然……その答えは、貴方を選んだのが涼宮さんだったのではなく涼宮さんを選んだのが……」 待ってください! 思わず立ち上がった俺はとにかく何かを言おうとした、このまま説明を聞いていたら何かとんでもない事になってしまうんじゃないか? そんな不安が俺をとにかく焦らせていた。 えっと、今この世界に居るもう1人の朝比奈さんは、未来人だって話を打ち明けてくれた時に数年前のある日よりも以前の時代に戻れなくなったって 言いました。そうなんですよね? 「はい、そうです」 でしょう?って事はやっぱりハルヒが全ての原因なんじゃないですか? 「キョン君が私を背負って涼宮さんとグランドで出会ったあの日、あの日よりも過去に戻れないんです」 黒塗りタクシーの中で聞かされた、あの時貴方が会った涼宮さんは、それより前の時間にはどこにも存在していないんですという古泉の言葉が思い出される。 ……古泉が言っていたのは……じゃあ。 俺の思考の中で纏まらなかった考えが、望まない形に固まっていくのが止められなかった。 「時間変動が観測されたあの日、涼宮さんがこの世に誕生した。まるで今の年代から逆算したかのような年齢で唐突に。そして関係する全ての人間の記憶に 彼女の存在が書き込まれた。そして涼宮さんによって未来人の存在が産まれた、……そう考えればあの日よりも前に戻れないのに説明がつくんです」 それで理解できるのだろうか、朝比奈さん(大)は小さく息をついて口を閉じてしまった。 すみません、さっぱりわからないんですが……。 俺にわかるのは大量に浮かび上がった問題だけです。それも長門でも解けないであろう超難問がいくつもね。 溜息といっしょに再びベンチに座る、しばらくは立ち上がれそうにない。 じりじりとした感覚だけが続く無言の時間の中、俺は何を考えればいいのかわからず、朝比奈さん(大)は今何を考えているのだろうか?と考えてみた。 これで会うのは最後だと言いきったのはこれがはじめてだけど、それは何故なのか? 未来が変わってしまうのなら、何故朝比奈さんは今ここに居られるのか? ……どうすればいいか教えてくれないのは、もうどうしようもないって事なのか……。 結局考えは形になる事はなく、いつしか悩んでうつむく俺を朝比奈さん(大)は優しく見つめていた。 「キョン君……もう、お別れの時間になってしまいました」 静かに立ち上がった朝比奈さん(大)が言い出した時、俺はそれを引き留めても無駄なんだろうなという事はわかった。 ベンチに座ったままの俺を見下ろす女神は、俺を沈黙させるなど容易いほどに綺麗で、今は大きなその眼に涙を浮かべている。 「この時代に来た私は幸せでした。色々恥ずかしい思いもしたけど、楽しい思い出もいっぱいできたもの。それに……」 すっと近寄ってくる朝比奈さん(大)の体が俺に重なり、動けないままでいる俺を抱きしめた腕に力が込められる。 その体は小さく震えていて、それに気づいても俺にはどうしていいかわからなかったのが悔しかった。 「もう1人の私は何も知らないまま消えてしまうけど……忘れないでね……私が居た事、過ごした思い出を」 俺の耳が涙に震えるその言葉を捉えたのを最後に、ふっと俺の意識は途絶えた。 ――居るわけないか。 再び俺の意識が戻った時ベンチに寝ていたのは俺一人で、やはりというか朝比奈さん(大)の姿はどこにもなかった。 俺の服にしみ込んだ水滴の跡だけが彼女の残した痕跡だ。 ……ハルヒは俺の思い込みの産物で、実は俺が神様だって?冗談だよな。いくらなんでも。 このままここに居ても風邪をひくだけだ。気だるい体を起こし、俺は日付が変わろうとしている静かな町を足早に歩いて行った。 SOS団が解散?確かに明日は市内散策の日で、俺達はここに集合する事になってる。だからってハルヒがそんな事を言い出すなんてありえない。 そうさ、あいつは未来永劫にSOS団は不滅だって言ったんだ。 だから俺は、翌日駅前に集合した時にハルヒが珍しい事に遅刻してきた上にポニーテールだったのにも驚いたんだが。 それより何より、全員が揃った所でいきなりハルヒがSOS団の解散を宣言した時は本当に時間が止まったと思った。 むしろ、止まって欲しかったぜ。 一日目 ただでさえ大きな可愛い瞳をさらに見開いて固まっている朝比奈さん。 多少やつれた顔で、それでも笑顔らしい表情を浮かべている古泉。 こんな時でも無表情の長門。その無表情が今は何故か、悲しく感じる。 俺は……俺はどんな顔をしてたんだろうな?自分ではわからないが、きっと間抜けな顔をしてたんだろうよ。 誰も何も言えないでいる中、ハルヒが口を開く。 「急にこんな事を言ってごめん。SOS団はあたしが言い出した事なのに自分でも勝手だって思ってる」 お前が勝手なのはいつもの事だが……。ハルヒ、お前本気なのか? 思わず本音が混じっていた俺の言葉に怒りもせず、何故かハルヒは顔を暗くして視線を外す。 「うん」 うんだと?俺の聞き間違いか? 谷口、国木田。隠れてるなら今すぐプラカード片手に出てきてくれ。鶴谷さんでも部長氏でも誰でもいい! みんなで揃って俺を担いでるんだろ?そうでなきゃおかしいじゃないか? 悪いことはみんな夢だなんて思うわけじゃないが、これはないだろ? 俯いたハルヒの周りに立つ誰もが口を開けない中、再び沈黙を破ったのはハルヒだった。 「じゃあ、これで解散。みんな……今までありがとう」 その言葉は、信じられない事に涙で掠れていたんだ。 今でも信じられないぜ。 やがて、小さく会釈して古泉が去り。 不思議な事に、長門は顔を上げられないでいるハルヒの手を軽く握ってから去っていった。 最後に残った朝比奈さんはハルヒ以上に涙目というか号泣で、俺とハルヒを交互に見ながら状況の説明を目で求めていた。 かといって俺に言える事なんて何もないわけで、無言の時間を過ごしていると……。 「キョン」 俺の名を呼ぶハルヒの声は、いつもの無意味なまでの力強さは無かったけれど、もう涙声ではなかった。 ただ、ずっと俺とは視線を合わせないままで視線は下を向いたままだったが。 「あたしね、SOS団のみんなが好き。もう解散してしまったけど、きっと一生忘れない」 ……俺もさ。 これだけ楽しい時間を過ごした仲間を忘れるような奴が居たら、そいつは健忘症の末期症状か情報の改竄でも受けたに違いない。 ただ、ここで終わりにするのは何故なんだよ? イベントが尽きたなんて言わせないぜ?なんとなくすっきりしないから、なんてふざけた理由でエンドレス夏休みをやったお前なんだからな。 「……宇宙人、未来人、超能力者。そんな普通じゃない何かと過ごせればきっと楽しいってずっと思ってた。ううん、今でもそれは楽しいんだろうって思ってる」 お前には言えないが、経験者から言わせて貰えばそれは楽しいぞ。 平凡な日常って奴が恋しくなるくらいにな。 「でもね、今はそれよりもっと楽しい事があるの」 そう言ってから、ハルヒはようやく俺に視線を向けた。 紅潮した頬と潤んだ視線に、俺は思わず息を飲む。 『そして、キョン君は涼宮さんに告白されて恋人になるの』 大人の朝比奈さんの言葉が蘇り、俺の体に緊張が走った。 まさか……本当にハルヒが? 動揺する俺に落ち着く時間なんて与えてくれるはずもない、そんな所だけはいつものハルヒだったな。 こんな状況で、そんな落ち着いた考えが浮かんだのは何故だろうね? 突然顔を近づけてきたハルヒに唇を奪われた俺は、その柔らかな感触をじっと感じる事ができる程度の余裕があった。 キスしたまま、まるで動こうとしないハルヒ。 ここが日中の街中で人目が無ければ俺もしばらくこうしていた……ってここにはまだ朝比奈さんが! 眼球の動きだけで視線を動かすと、俺達を見つめる天使は口元を両手で隠しながら涙眼のまま微笑を浮かべている。その表情に驚きが無い気がするんだが……。 どれ程そうしていただろうか。 ようやく唇を離したハルヒの第一声は。 「バカ」 だった。 なんていうか……お前らしいな。 「う、うるさい」 ハルヒはいつものペースを取り戻した様な気もするが、その顔は真っ赤なままで見ているとこっちまで赤くなりそうだ。 離れるまで気がつかなかったが、どうやらハルヒはキスしている間ずっと背伸びしていたらしい。 今は恥ずかしそうに視線を泳がせているハルヒのポニーテールが、俺の目の前に見えている。 えっと、今のは……つまり。 なんて聞いたら怒りそうだが、聞くしかないよな?でもなんて言えばいいんだ? 「みんなと居る時も楽しいけど、あんたと2人で居る時の方が楽しいの。でもみんなが嫌いって事じゃなくて大好きなんだけど、あんたは……その、 特別っていうか。2人でずっと一緒に居たいって思って……その。あ、あんたも何か言いなさいよ!」 言ってるお前も恥ずかしいだろうが、聞いてる俺も恥ずかしいぞ。ついでに言えば朝比奈さんはもっとだろうさ。 ハルヒ。 「な、何」 俺の言葉に身を震わせるハルヒは、いつもと同じ強気な暴君の様に胸を張ってはいたが。その手は震えていて、俺を見返す瞳には脅えが浮かんでいた。 未来の朝比奈さん、あなたが聞いたセリフってのは俺が今から言う言葉と同じですか? すっと今の朝比奈さんへ視線をずらすと、ハルヒの顔が一気にこわばる。 俺の視線を受けた朝比奈さんは戸惑って何か言おうとしているが、俺はそれを片手で制した。 さあ、ジョン・スミス?お姫様がお待ちだ。さっさと言っちまえ! ハルヒへと視線を戻した俺は口を開き……。 何で俺なんだ? ハルヒと付き合いだした俺が最初に思ったのはそれだ。 面白さって事なら我ながら特に特徴の無い俺を、魏の唯才令曹が如く人外の逸材を求めていたハルヒが必要とする要因なんて何一つないだろう。 外見?自慢じゃないが、俺がモテるようなルックスじゃない事くらい自覚してるさ。 じゃあ何だ? そんな質問をハルヒが嫌うって事だけは知っている俺は、1人になるたびに答えの出ない自問自答に耽っていた。 まあ、あまりに自分を否定する材料しか出なくて途中で止めたけどな。 「お待たせ」 トイレから戻ってきたハルヒが自然に腕を絡ませてくる。それを恥ずかしいとは思うのだが、ハルヒがやけに嬉しそうなんだから恥ずかしいくらいは 我慢するとしよう。 「あ、カラオケ!入ろう?」 ああ。 本日SOS団でする予定だった市内散策は、そのままデートに形を変えて実行されていた。 もちろんここにいるのは俺とハルヒだけ。 告白の場に居た朝比奈さんの姿はいつの間にか消えていて、俺は彼女が未来へ帰ってしまったのではと狼狽した。 しかし、俺の携帯にいつの間にか届いていたメールを見てほっと胸を撫で下ろす事になる。 『実は、少し前から涼宮さんから好きな男の子が居るって相談されてたんです。涼宮さんの事を大事にしてあげてくださいね』 返信はまだしていない。何て打てばいいのかわからないしな。 かつてお前に、こんなおかしな事は止めて彼氏でも作って一緒にデートでもすればいいと言った事はあったが……まさか俺が彼氏になろうとはね。 人生何が起きるかわからないよな、ただの高校生でしかない俺が時間旅行に閉鎖空間を経験するとか、今時小説にもならない設定だぜ。 何より、お前と俺が付き合うなんてのは、これこそ事実は小説よりも奇なりって奴だろう。 カラオケはまだ日中という事もあって大部屋も含め殆どの部屋は空いてはいたのだが、俺達は2人だったので受付から案内された部屋は3人も入れば 手狭に感じるような小部屋だった。 店員の説明も終わり、扉が閉まって2人っきりになった途端。 「キョン」 呼びかけに振り向いた俺の唇を、再びハルヒの柔らかなそれが塞いだ。 今度は学習していた俺は、少し屈んでそれを受け止める事に成功する。 姿勢が楽だったせいか、さっきよりも長めのキスを終えたハルヒはまた顔を紅潮させていた。 沈黙に耐えられず、とりあえず座ろうとする俺の背後から問い詰めるような声がする。 「前に」 ん? 「前に市内散策した時。有希と、その。何もなかった?みくるちゃんとも!……べ、別に何かあっても今は無いならいいんだけど……」 ……ああ、あの図書館と公園に行った時か。何か懐かしい気がするな。 恥ずかしそうに口を曲げるハルヒはいったいどんな想像をしてるんだ?俺がそんなにもてそうに見えるのかよ。 まあ、あの2人に関して言えば恋愛以前の問題だったんだがな。 あのなあ。あれはみんな出会ったばかりの頃だろうが、そんなすぐに人を好きになったりすると思うか? 「あたしは!」 抗議するように声をあげてハルヒが詰め寄ってくると、座ったばかりのソファーの端に俺はおいやられた。 体勢を崩した俺を押し倒すようにして、ハルヒが俺の胸の辺りを見下ろしている。 「あたしは……ずっと。自己紹介の時に振り向いたあんたを見てから、ずっと気になってて……好きだったんだもん」 そこまで言い切った直後、ソファーに置かれたクッションが俺の顔目掛けて次々と飛んできた。 俺も顔が真っ赤だったはずだからそれはありがたかったんだが……。今のは本気か?その割には俺に対して常に攻撃的だったと思うぞ。 クッションの壁をようやく切り崩した時、ハルヒは何事も無かった様な顔でリモコン片手に曲を入れていた。 まだ顔が真っ赤だったのは見逃しておこう。 ハルヒ。 「ひゃっ?!」 俺に呼びかけられてハルヒが変な声を出して振り向く。 飲み物、何か飲むか? 内線を持つ俺に向かって、またクッションが飛んできたのは言うまでもないだろうね。 それから数時間の間、延々と2人カラオケが繰り広げられる事となった。 ハルヒは文化祭の時同様に素人とは思えない歌唱力を発揮して、俺はもっぱらお笑い担当だったのは適材適所って奴だろうよ。 異様なテンションの高さに飲酒を疑われるような2人だったのだが、俺は心のどこかでここに長門や古泉、朝比奈さんが居ない事に違和感を感じていた。 「キョン」 ん? 不思議なもんだ。 俺がそうやってハルヒ以外の事を考えていると、必ずハルヒはそれを察知したかのようにキスをねだってきた。というか奪いに来る。 短い時間のキスが終わると、決まってハルヒは寂しそうな顔をした。 今思えば俺はなんであんなにのんびりとしていられたんだろうな。 ハルヒが彼女になったのにって話じゃない、このままだともうすぐ4人が消えてしまう日が来るかもしれないって話さ。 夢見たいな事が現実になっちまったせいか知らないが、ともかく俺はハルヒとの時間を過ごす事に文字通り夢中だったんだ。 二日目 「ふ~ん……これがキョンの部屋なんだ」 あれ、夏休みに来た事あったじゃないか。 「あの時はみんなも居たじゃない。今日は、なんだか違う部屋みたい」 本来の主である俺よりもずいぶん軽いであろう体重を支えているベットは、それだけで他人の物みたいに見える。 今日もハルヒはポニーテールだ。 昨日も思ったが髪の長さが足りないせいでぴこぴこと跳ねるそれは、見ていて飽きることがない。 きょろきょろと落ち着き無く部屋中を見回すハルヒは、それなりに緊張しているようだな。俺もだが。 俺はそんなハルヒを椅子に座って眺めていた。 昨日、ハルヒとこれでもかと言う程に遊び倒してから別れた後『明日はキョンの家に行っていい?』とメールが来てからの数時間、俺は自室の掃除に 大慌てだった。 突然の行動に変な所でカンのいい妹は「キョン君!彼女?ねえ彼女が来るの?誰?有希ちゃん?」と騒ぎたて、それを聞きつけた母親も部屋を覗きに 来ようとするのを阻止しながら、何とか恥ずかしくない程度に掃除が終わったのは日付が変わった頃だった。 やれやれ、今は寝不足が続いていいような平時じゃないと知ってるのは俺だけってのはいくらなんでも不公平じゃないか? あ、古泉と長門も知ってるんだったな。 最後の最後まで抵抗を続けた妹は正午を過ぎた今もなお熟睡中で、母親は変な気を利かせてか外出中。 物音一つしない俺の部屋の中で、それまでイージス艦よろしく何かを探していたハルヒの視線がようやく止まった。 「あ、それってアルバム?」 そう言ってハルヒは本棚を指差してこっちを見てきた。緊張していた顔にようやく楽しそうな表情が浮かんでいる。 俺が頷くと、ハルヒはそれを見てもいいと解釈したらしくさっそくアルバムを取り出して膝の上に広げた。 「ふ~ん……。知らない顔ばっかりね」 学校が違うからな。 ハルヒが見つけたアルバムは中学の卒業アルバムで、当然俺の写真なんてクラスの紹介以外には殆ど無い。 行事で活動的に動くような生徒でもなかったし、部活動でも目立ってた事も無い。 そんなのんびりとした生徒をわざわざ写そうとする奇特な教師が居るわけも無く、見つけられた俺の写真の全てが小さな集合写真だったのは当然だろう。 どうやらハルヒはそれが不満なのか、小さな写真まで細かく調べていった。 まあ、気が済むまで見てればいいと思っていたのだが。 「あ、あのさ。中学の時にキョンは誰かと付き合ったりしてなかったの?」 アルバムに視線を落としたまま、ハルヒが呟く。 思わず一人懐かしい顔が思い浮かんだ……が。 してなかったぞ。 嘘をつくまでもなくこれは事実だ。 「そっか」 あっさりと告げた俺の言葉に満足したのだろうか、ハルヒはそれ以上追及する事無くアルバムを閉じて本棚の元の位置に戻した。 そしてそのままの姿勢で固まっている。 「これってもしかして有希の本?」 タイトルだけでよくわかったな。 まあ内容も見た目も軽い本が並んだ棚の中で、その本だけが分厚くて目立つのはわかる。 ハルヒの視線の先には、以前長門に借りたあの本があった。返さなくていいと言われて持ってはいるが、俺が何度も読むとは思えないし返した方が いいんじゃないだろうか。 借り物だけど読んでみるか?お前が気に入りそうな内容だったぞ。 「う、うん。また今度ね」 ……さっきから、というよりもこの部屋に部屋に入ってから変だな、こいつ。それとも俺が変なのか? 「あのさ」 ん? 「急に2人になると何か照れるよね」 そうだな。 平然としてるつもりだが、正直緊張しているぞ。 「でも、みんなが居る時はこんなにキョンと二人っきりで居られないし……。その、キョンは楽しい?……あたしと二人で居て」 緊張した顔で見つめてくるハルヒは、なんというかここで間違いが起きても仕方ないような可愛さだった。 椅子の背もたれに跨っておいてよかったぜ。すぐには馬鹿げた事をしないですむ。 一緒に居たくなかったら、部屋に入れたりしないだろ? 「……そっか、うん」 嬉しそうに俯くハルヒの仕草に、自然に手が伸びていた。 これくらいならいいよな?そう自分に言い訳しながら、ハルヒのポニーテールをそっと撫でてみる。 「ぃひゃ?!な、なに?」 今の俺とハルヒの間には閉鎖空間みたいな見えない壁がある気がする。 それは今まで一緒に過ごしてきた友達という関係で、その一線を越えちまったら今までの様には接する事ができなくなる。そんな壁だ。 自分からその壁を壊しにきたハルヒでさえ、今以上の関係になる事には躊躇いがあるのを感じる。 ……そうだよな、みんなで過ごしてきた時間はそんな簡単に手放せるような物じゃないもんな。 もしかしたら、俺達が恋人同士になってもSOS団を存続させる道はあるのかもしれないが、ハルヒは自分が一番望む事でなければ笑ったりしないだろう。 それがわかっているから解散したんだもんな。 でも今なら、まだ引き返せるかもしれない。 恋人ではなくSOS団の仲間に。 ハルヒは……いや、俺はいったいどちらの関係を望むんだろうか? とまあ俺達の関係もどうすればいいかわからないが、長門達が言うように本当に4人は消えてしまうかもしれないって問題のほうはさらに手詰まりに なっている。 いつもの様に誰かに相談する事もできない、かといって時間が進むのは止められない。 ――答えの出ない疑問を抱えたまま、最後の日がやってきた。 三日目 四日目 放課後の部室棟、誰も居ないであろう文芸部の部室の前で俺は立ち尽くしていた。 ここはもう元文芸部ではない。 廊下には文芸部と書かれたプレートがあるだけで、SOS団と書かれた紙はもうない。つまり本当に文芸部だって事だ。 もしろ最初からそんな紙は無かった事になっているんだろうよ。 触ってみてはいないが、プレートの上にセロテープが貼ってあった痕跡も無く、代わりにそれなりの年月で降り積もった埃が乗っているはずだ。 現状は、俺が長門の力によってハルヒの居ない世界に迷い込んだあの時よりも状況は悪い。 なんせ誰も居ないんだもんな。 頼るべき相手どころか相談相手も居ない。……そして俺には特別な力なんて無いんだ。 ドアノブに手をかけてみたが回す気になれず、俺は手を離してその場を後にした。 家に帰る気にもなれず、教室に戻った俺は机にその身を委ねてこのまま机の一部になろうとしていた。 俺の席は窓際の後ろから……一番目。 後ろの席になるべき場所に机はなく、そこは空間が広がっているだけ。 朝、教室に入った時にその状況を見ても俺は驚かなかった。 こうなってるだろうって予想はできてたからな、変わりに朝倉が居ないってだけいいのかもしれん。 ……いや、本当は朝倉でもいいから居て欲しかったな。 「お、まだいたのか」 声に続いて聞こえてきた足音は二つ、多分谷口と国木田だろう。 その音に振り向くだけの行為も面倒くさく、俺は夕焼けに染まろうとしている空を視線だけで見つめ続ける。 「なんだよキョン、世界の終わりみたいな顔して?」 言いえて妙って奴だな。 「はぁ?」 ある意味、主が居なくなったこの世界は終わってしまってるんだろう。 みんな居なくなってしまった。寡黙な宇宙人も、天使の様な未来人も、ゲームの弱い超能力者も……そしてあいつも。 1人残された俺にはのんびりとした平凡な日常が待っているはずだ、それは俺が望んだからなのか?望んでないとは言えないけどな。 「何意味不明な事言ってんだ?」 ……谷口。 「あ?」 俺が今から聞くことは無駄な事だ、自分でもそれは分かってる。 どうにも力が入らない体をなんとか起こし、奇跡って奴がもう一度起きないか願ってみた。 お前、涼宮ハルヒを知ってるか? 「すずみや……知らねぇな。どんな字を書くんだ?」 国木田はどうだ?長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹。聞いた事のある名前は無いか? 「ん~……聞き覚えのない名前だけど。新しい芸能人か何か?」 そうだよな、初めから何も無かった事になってるんだもんな。 ここは長門が作ったようなIFの世界でもハルヒが無意識に作ってた閉鎖空間でもない、ただの現実。それはわかってるんだ。 「休み明けからお前変だぞ?何があったかしらねえが元気出せって」 ありがとよ。 でもな、俺が何もする気にならないのは仕方ない事じゃないか? 魔法以上の愉快が、限りなく降り注いでいた日常が終わってしまったんだ。何事も無い日常って奴に慣れようにも時間が要る。 再び机との同化作業に戻った俺を残して、二人の足音は遠ざかっていった。 時間の経過に合わせて空はその姿を変えていき、沈んでいく太陽が教室内を赤く染めていく……。 圧力を感じるような光の中、俺はふと背後に気配を感じて振り向いてみた。 しかしやはりそこにはハルヒの机はなく、不自然に広い空間が広がっているだけ。 終わり……か。 今日という一日が終わって過去になり、明日が来る。その繰り返しの中で古い記憶は薄れていき、いずれは消える。それは避けられない事なんだよな。 そうやって理屈を並べて自分を理性的に納得させようとする感情と、それを否定する感情が心の中で戦っているのがわかる。 否定するそれは、ただ単純にあの頃……つまりは数日前に戻りたいと叫んでいた。 俺だってそうしたいさ、朝比奈さんや長門や古泉ともう一度会いたい。ハルヒとも……。 「見ないで」 悲しそうなハルヒの顔が一瞬浮かんで、消える。 あいつ、もう俺とは会いたくないと思ってるかもな。 それまで低かったはずの体温が急に上がるのを感じる、心臓が勢いよく鼓動しだしてまるで今から全力で走り出そうとしているみたいだ。 だらりと垂れ下がったままの腕に力が入り、掌もじっと汗ばんでくる。 あいつが会いたくなくても、俺は会いたい。 ……それだけでもいいよな? 俺は殆ど体温と同じくらいまで温まっていた机から身を起こし、真っ赤に染まった教室を出て行った。 まずはどこだ?いや、考えるまでも無い全部だ! 俺の足は、昨日カマドウマ以下であると確定した俺の頭が動き出す前にすでに走り出していた。 最初に向かったのは屋上の扉前、ハルヒに部活を作る手伝いをしろと脅された場所だ。 夕方の校舎はすでに照明も落ちていて薄暗かったが、探す場所も無いほどにそこには何もない。 ……次は、部室だな。 俺は階段を登ってきた勢いそのままに階段を駆け下りていく。 元文芸部であり元SOS団部室でもあった現文芸部の中には、やはり見覚えのある物は何もなかった。 長門の時に一回経験してるからな、ここまでは予想範囲内さ。 しかし、あの時と違うのは旧式のパソコンもすらもここには無いって事だ。 正直失望もあった。だが、諦めるのはまだ早い。 壁際に置かれた本棚に向かうと、さっそく端から順に調べていく。 今回も栞があるとは限らない、小さなヒントも見逃さないように丁寧にページをめくっていく……。 無いか。 本棚の本を全部調べ終えた時、思わず独り言が出てしまった。 薄暗かった部室は今は照明をつけているので明るいが、外はすでに日が落ちていてグランドにも人影は無い。 探し物をしている間に用務員が一度部室を訪れたが、必死に調べ物をしている俺の姿を見て勉強の為とでも勘違いしたのかあっさりと引き上げてくれた。 次はなんだ? あいつは俺に部活を作る規則を調べさせて、自分は部室とメンバーを準備したんだったな。その後どうなった? ……最初、ここに長門が居た。 あいつがいつも居た窓際に、今はパイプ椅子は置かれていない。 そして、朝比奈さんが拉致されてきた。 ハルヒの興味が向くままに集められていった朝比奈さんの衣装がかかったハンガーは、その姿を消している。 最後に、転校してきたばかりの古泉が連れてこられた。 弱いくせに次々と持ち込んできたあいつのゲームは、部室のどこを探しても見つからない。 SOS団に関わるものは何もかも無くなっている、そんなのはわかってるさ。 とりあえず座ろうと思い、部屋の隅にあったパイプ椅子を広げて置いた時、俺の脳裏に僅かに熱をもった視線で見上げるあの宇宙人の顔が浮かんだ。 「なんだい君は。入部希望者かい?」 無駄にエアコンが効いた部室に入ってきた俺を迎えてくれたのは、奇異の目で見上げる部長氏の顔。 そしてモニターから視線を上げようともしない部員達だった。 どうみても初対面って感じだな。俺達は面識すら無いって事になってるらしい。 入部希望じゃないんですが、コンピ研に興味があって来たんです。 「はぁ?……もしかして、文化祭で我々のゲームをプレイしたのかい?」 部長氏のその言葉に俺は思わず息を飲む。 思い出されるのはSOS団に挑戦状を持ってきた部長氏、先手必勝と蹴り飛ばすハルヒ、宇宙空間を彷徨う朝比奈さん、のりのりな超能力者。 ……そして僅かに目を輝かせた宇宙人。 頼むぜ、何か手掛かりがあってくれよ? 俺はなるべく専門家っぽい表情を浮かべて部長氏のパソコンを覗き込んだ。 どこかで見たことがあるモニターだとは思ったが、これはハルヒが強奪した例の最新型パソコンじゃないか。 あるべき場所にあると違うように見えるもんだな。 不審げな視線を送ってくる部長氏を無視しながら、俺は言葉を選んで話し始めた。 The Day Of SagittariusuⅢには、チートモードがある。 俺の言い終えるのと同時、部室の中に響いていた無機質なタイプ音が瞬時に止まる。 「……な、何の事だい?」 声は笑っていても、モニターに写ってる顔が笑ってないぜ?部長さん。 索敵モード、オフ。 続く俺の言葉で、部員の間に緊張が走るのがわかる。そして何より部長氏の顔は引き攣っていた。 さらにワープ機能。 「ど、どうやって調べたんだ?配布版には編集機能は無いし、何よりロックしてあるプログラムを解析できるなんてただの高校生とは思えない……君、名前は?」 急に熱意に満ちた目で見つめてくる部長氏に、俺は何て答えればいいのか? ここで答えるべき名前はこれしかないだろう、ある意味俺には魔法の言葉だ。 ただの一般人でしかない俺に、ほんのちょっとの勇気をくれる名前。 ……待ってろよ?ハルヒ。 俺は久しぶりに胸を張って口を開いた。 聞きたいのはハンドルネームですよね?俺はジョン・スミスです。 それから俺は部長氏にSOS団の事を聞いた。まさか知って無いだろうと思ったのだが、 「ああ、知ってるよ。僕のお気に入りにいつのまにか登録してあったんだ。カウンターとTOPページがあるだけのHPで何なのかわからないんだけど、 何故か消去する気になれないんだ」 一気に道が開けたのかと期待した俺だったが、残念ながら部長氏が知っているのはそのサイトだけで、長門や古泉、そしてあんな事があった朝比奈さんと ハルヒの事も知らなかった。 それにしてもあいつの痕跡が何故この世界に残れたのか? 俺に正確な答えが出せるとは思えないが、あのサイトはハルヒが指示して、俺が作った物だ。 つまりこのサイトは、シンボルマークを除けばパソコンに向かう俺の後ろでがなってた指示だけしかハルヒは関わっていない事になる。 ここで正確な事がわかるはずもないが、とにかく俺はみんなとの繋がりを見つけた事に喜んでいた。 部長氏のパソコンでさっそくそのサイトを見せてもらうと、そこにはあの長門改編による「ZOZ」団のロゴが現れる。 カウンターは一万を超えたままだ、数日前に見たはずなのに懐かしさがこみ上げてくるのを止められないぜ。 URLに数行足して、編集者モードに入りログインパスワードを入れる。 「これってあんたのサイトなのか?」 パスワードは正確に認知され、画面は編集画面へと切り替わった。よかった、間違いなくこれは俺が作ったサイトらしい。 まあそんなもんです。 「もしかして……他人のパソコンのお気に入りに自動登録させるウイルスか何かなのかい?凄い技術じゃないか!」 変な方向へ勘違いしてくれている部長氏は無視したまま、俺はブラウザを閉じて、次の行動に移った。 スタート、検索、対象はドライブ全部で形式はJPG・・ 「ちょ、ちょっと待ってくれ?」 ああ。そうか、高校生のパソコンに見られたらまずいものがないわけないよな。 検索対象を変更、フォルダ名mikuruを検索。 ……だめか。 検索結果は0件が表示されている。 朝比奈さんの存在が無かった事になってるのに、画像が残ってるわけないか。 「い、今のはなんだったんだい?もしかして君のプログラムの痕跡を探してみたとか?」 適当な言い訳を考えるまでも無い、部長氏は勝手に勘違いを継続してくれているようだ。 まあそんな所です。 少なくともこれで、実は俺は精神障害者で今までの出来事は全て妄想に過ぎなかったなんて事はなかったわけだ。 だからといって状況が好転しているって事でもないけどな。 部長氏にパソコンを明け渡し、また来ますとだけ言い残して俺はコンピ研の部室を後にした。 う~寒い。 そう自然に口から出るほどに、いつの間にか外の気温は下がっていた。 地球温暖化の影響って奴かは知らないが、日中と気温の差がありすぎるんだよな。 防寒面でまるで役に立たない冬制服を恨みつつ足早に校門を出て、そのままいつもの下り坂を降りていく。 すでに周りに生徒の姿はない、まあ街灯がついてるような時間だから当然といえば当然だ。 寒さを振り払うように自然と速度を上げて歩いて行くと、次の目的地である女子校が見えてきた。 自然に思い出されるのは髪の長いあの世界のハルヒと、思いっきり足を蹴られた時のあの痛みだな。 ふと、女子高の前に誰かが立っているのが見える。 それは腰辺りまで伸びた長い髪に、黄色いカチューシャをして……って。 寒さに震えていた体がさらに温度を下げた気がしたのに、それは不快な寒さではなかったというかなんとも説明しようがないね。 気のせいでなければ、その人影もどうやらこちらを見ているようだ。 距離にして30メートル程度しか離れていないから、顔までは見えないだろうけど俺の姿は確認できていると思う。が、何のリアクションもない。 気がつけば止まっていた足を何とか前に踏み出す。 何故俺はびびってるんだ? あれがもし、「あの時のハルヒ」だとしても、俺が恐れなくちゃいけない理由なんて何もないはずだ。 それに俺は女子高があの時みたいに共学に変わっていて、ハルヒが居る事を望んでいたはずだろ? だからこうしてここに居るのに、無駄に激しい胸の動悸は治まりそうにもない。 そして残り10メートル程の距離まで来た、……すかさず漏れる溜息。 おいおい、俺はどうあって欲しかったってんだよ。 そこに居たのはハルヒでも、そしてあの時のハルヒでもない――ただの知らない女生徒だった。 近づいてきた俺が自分を見ているのに気づいて、女生徒は小さく会釈しながら不審げな眼をしている。 まあそうだろうな、通りすがりの男子高生が自分を見ていきなり溜息をついてんだから。 俺も適当に会釈のような素振りをして、足早にその場を通り過ぎた。 横目に見た女子高はどう見てもいつもと同じ校舎のまま、これまたよく見れば女生徒の制服もいつもの女子高の物のままだった。 軽い失望と不思議な安堵感と共に次に俺が向かったのは……。 手慣れた操作でタッチパネルを操作していくと、安っぽい電子音とともに自動扉は開いていく。 覚えていた暗証番号が使える、って事は少しは期待できるかもしれないな。 公園を出て例のマンションへとやって来た俺は、久しぶりに自信に満ちた顔でさっそく長門の部屋へと向かった。 しかし現実って奴は厳しい。 708号室の前に取り付けられたインターホンはいくら鳴らしてもなんの反応もなく、当然オートロックで守られた扉は固く閉ざされている。 留守……って可能性もなくはないが、あいつが部室とマンション以外で行きそうな場所となると図書館くらいしか思いつかない。 その図書館だってこんな時間じゃもう閉まってるよな。 違う人が出てこなかっただけまだ救いはあるが、それだけで喜べるほどプラス思考にはなれそうにないぜ。 他の三人の家なんて知らないし、覚えていた携帯番号も全員そろって使われていないのガイダンスが流れてくる。 何をしていいのかわからない時間が、確実にやる気のゲージを削り取っていく。 ……これからどうすればいいんだ? ドアに背を向けてもたれると、視界にはネオンに彩られた夜の街がどこまでも広がっている。 長門の世界で時間制限をかけられてた時の方がまだよかったよな。 あの時は制限があったからこそ可能性もあるんだって思えていたが、今回みたいに何のヒントも何の手がかりも……というよりも、 可能性すら感じられない状況では期待し続ける事が難しい。 見知らぬ上級生になっていた朝比奈さんも、転校して来なかった古泉も、文芸部で一人過ごしていた長門も居ない。 そして、ハルヒも。 もうあきらめろよ? そう、自分の中の理性が言っているのがわかる。徒労感が味方しているのか今度の理性はやけに強気だ。 ただ、平凡な日常に戻るだけだろ?それに慣れるように努力した方が前向き。違うかい? ……そうかもな。 今の言葉、本気で思ってるか?考えてもみろ、これから進路だテストだって忙しくなる。そうなった時に今までみたいな事をしてたら後で後悔するぜ? そう考えたら、今の状況は悪くない。やっと周りの連中と同じに戻れただけじゃないか。俺の言葉に反論できるんならしてみろって。 ……。 何事もな、済んでしまったら寂しくなるんだよ。ゲームが終わってもアニメが終わっても恋愛が終わってもな。そうなった時に未練たらしく思い続ける よりも、他にやるべき事を見つけて努力する事が人生において最も大切であってだな。 黙れ。 思わず声が出た自分に驚きながらも、俺は急いで左右を見回した。 ……よかった、誰もいないか。 末期症状だな。いくら突っ込む相手が居ないからって、自分で自分に突っ込んでどうするんだよ? 突然、静かな廊下に携帯の着信音が鳴り響く。 コンクリートの壁に反射されたそれが響き渡る中、俺は急いで携帯を取り出して相手も確認しないまま受話ボタンを押した。 「あ、キョン君?今日は遅いね!どうしたの?」 甲高い妹の声を聞きながら小さくため息をつく、そういえば連絡してなかったな。 悪い、今日は遅くなるから夕飯は要らないって伝えておいてくれ。 「おかーさーん。キョン君ごはんいらないってー…………うん…………お母さんが何時に帰ってくるのって?」 わからん。 「わからんってー」 妹がおそらく母親へ向かって叫んでいるのであろう無駄にでかい声を聞きながら、俺は通話終了のボタンを押した。 そしてそのままマナーモードに設定して携帯をしまう。 これからどうすりゃいいのかも、もうわかんねーよ。 それからしばらくの間、無音で振動を続ける携帯を無視したままで俺は変わらない様で変わっていく夜の街並みを眺める事にした。 ――どれくらいそうしていたんだろう。 いつの間にか冷たかったはずのドアは俺の体温でそれなりの温度に上昇していて、代わりに夜の外気にさらされていた俺の体は冷え切っていた。 うわ、もうこんな時間かよ? やれやれ……結局4日連続で日付を超えるまで起きてる事になるな。 取り出した携帯の時間にため息をつきながら、俺はエレベーターへと向かって戻り始めた。 安全の為か常時照明がついているエレベーターのフロアに辿り着くと、階数表示のパネルの数字がゆっくり増えて行くところだった。 なんとなく下を押すのが躊躇われて待っていると、階数表示はそのまま数字を増やしていきやがて俺が居る階。つまりは7階にたどり着いて止まった。 エレベーターの扉が開くとそこには……。 「お久しぶり。……何よ、そんな不思議そうな顔をして」 そいつは当たり前の様に俺の手を掴んでエレベーターへと招き入れると、そのまま5階のボタンを押した。 7階に用があったんじゃないのか? 「久しぶりに帰ってきたクラスメイトに、そんな冷たい態度はないんじゃない?」 そいつは無邪気な様で邪気たっぷりにしか見えない顔で俺の顔を見ながら笑っている。 つい先日刺されたばかりの俺が間違えようもない――そいつはどうみても朝倉涼子だった。 エレベーターの中には何故か大量の荷物が山積みに置かれていて、しかも朝倉はこの寒さの中でどうみても夏向きな半袖の服を着ている。 「何でこんな格好なのか気になる?」 別に。 お前が男装をしていようがメイド服を着ていようが知ったこっちゃねーよ。 「無理しないの。貴方の力になる為に戻ってきてあげたんだから」 俺の力に?お前が? 台詞が終わるのを待っていたかのようにエレベーターは下降を止め、扉が開いていく。 「荷物を運ぶの手伝ってもらえるかな?重くて大変だったの」 嘘つけよ。どう考えても普通の女一人で運べるような荷物の量じゃないが、お前が普通じゃないって事ぐらい覚えてるぞ。 と、言いたかったのだが。俺は素直に朝倉の部屋まで荷物を運んでやることにした。 やっと見つけた手がかりだ、たとえ自分を2度も殺そうとした相手だからって嬉しくないわけじゃないしな。 朝倉の部屋、505室の中は長門の部屋と同じ間取りなのだが壁紙もカーテンも無く長門の部屋以上に殺風景だった。 「一人暮らしの女の子の部屋に入れたからって、変な事考えちゃダメだからね?」 馬鹿な事を。 変な事ってなんだ、情報連結の解除か? 俺の言葉に、朝倉は驚いたような嬉しそうな表情を浮かべた。 「ふ~ん……って事は君は全部覚えてるんだ。やっぱりね」 エレベーターと部屋を十数回往復してやっと荷物を運び終えた俺がソファーに座っている回りを、朝倉は楽しそうに歩いては次々と荷物を開封していく。 ふと目についた荷物のタグには、見慣れない英単語が並んでいた。 まあ見慣れた英単語なんて無いんだが。 朝倉、お前どこか外国へ行ってたのか? 「私がどこへ行ってたのかは知ってるでしょ?」 紐で縛られた食器を運びながら朝倉は笑っている、俺が知っているだって? 俺が知っているお前は長門に消滅させられて、建前上カナダへ行った事になり。その後、俺を殺そうとしてだな。 「今言ったじゃない」 なんのことだ? 「私は建前上、カナダへ行ったのよね」 そうだな。お前が消えちまった事を長門がそうやってごまかしてくれたんだろうよ。 「ヒント、涼宮さんが思った事はいったいどうなりますか?」 何を突然……。 「いいから答えてよ」 ハルヒが思った事はその通りになっちまう。これでいいか? 「正解!長門さんが私の情報連結を解除した事を涼宮さんは知らない。そして私はカナダへ行ったと聞いた……」 思いつくまでに数秒かかった。 ……まさか! 驚く俺を見て、朝倉は嬉しそうに笑っている。 ハルヒは朝倉が転校したと本気で思ってる、なんせ実際にここまできて探しまくったんだからな。 だから本当は消えてしまった朝倉は、ハルヒの思い込みのせいで本当にカナダに行った事になったってのかよ? 「長門さんも私がカナダに再構築されてた事には気づかなかったみたいね。……でもそれって、気にしてなかったからチェックもしなかったって事だから ちょっとショックだけど……そのおかげで助かったんだから、結果オーライって所かな」 それで?何で帰ってきたんだ。3度目の正直で俺を殺したくてか? 1度目はナイフが掠っただけ、2回目は奇跡的に致命傷にはならなかったがしっかり突き刺してくれた。次はなんだ? 「3度目?」 覚えていないというよりも本当に知らないらしく、朝倉は不思議そうな顔で俺を見ている。 ああ、あの時の事は知らないのか。気にするな。 「気になるから教えてよ?それに涼宮さんが居なくなった今、私は貴方に殺意なんて持ってないから安心して?」 その言葉に俺は少なからず、いやかなり動揺した。 何でハルヒが居ない事を知ってるんだ?いや、それよりハルヒが居ないのを知ってるならなんでここに来たんだよ? 「そんなに一度に質問しないで、それに私が先に質問してるの。質問に質問で返すなんていけないよ?まずはそうね……涼宮さんの居なくなった時の話がいいな」 そう言って俺が座るビニールに包まれたままのソファーの向かいにあった、まだ封を開けていない段ボールの上に朝倉は座った。 どうやら話を聞くまでは何も教えるつもりは無いらしい。 終始嬉しそうな顔をしている朝倉相手に、俺はこれまでの事を話し始めた。 俺は昨日の事は一生誰にも話せないだろうと思っていたが、本当はやっぱり誰かに聞いて欲しかったのかもしない。 一度開いた口は止まらず、聞き役に徹している朝倉相手に俺はゆっくりと事の顛末を話していった……。 3日目 「ねえキョン」 なんだ? 「なんだかさ、休日の校舎って不思議な感じよね」 そう聞いてくるハルヒは、極上のスマイルに少しの緊張をブレンドした顔で……惚気でしがないが、俺はそれを素直に可愛いと思った。 もちろん今日もハルヒはポニーテール、三日連続だが一向に飽きる気がしないね。 あの日。 結局、一日俺の部屋で過ごした俺とハルヒなのだが。 ハルヒのポニーテールを触っている時に妹が乱入してきてからは特に何事もなく、妹相手にハルヒが暴れまわって何故か料理大会にゲーム大会と続いて いつの間にか日付が変わっていた……とまあそんな感じだった。 つまりは、朝比奈さん(大人)が言うような展開も何一つ起こらなかった訳で、俺は密かに危険は回避できたと思っている。 ハルヒと、その、なんだ。表現する事に制限がかかるような展開があってみんな消えるって奴の事だ。 少なくとも、俺とハルヒの間にそんな出来事はなかった断言できるぞ。 「朝比奈みくるの異時間同位体が知っている知識は、これから起こるはずであった選択肢の一つ」 ハルヒが帰った後、これでもう大丈夫なのか?と長門へ送ったメールの返事がこれだ。 なんとも素敵にわかりにくいが、なんとなく意味は通じる気がする。 でも、朝比奈さん(大人)が言う歴史通りにはならない可能性もあるんだよな? と聞いてみると。 「絶対の歴史はどこにも存在しない」 という何とも頼りがいのある返答が返ってきた。 「何にやけてんの?」 ん、いやなんでもない。 「変なキョン」 にやにやしている俺に疑いの眼差しで見つめるハルヒだが、流石に今の俺の心境までは見通せないだろうよ。 静かな部室棟を俺達二人は歩いて行く、目的はもちろんSOS団の部室だ。 部室のドアの前で俺はふと足を止めた。 「何見てるの?」 ん?ああ、これだ。 俺が指さしたのは、文芸部の看板に張られたハルヒ直筆のSOS団と書かれた元A4紙だ。 「ああ、これね。ちゃんとした看板の方がいいのかな」 隣に立ってハルヒも看板を見上げる。 そうじゃなくて、俺はSOS団が解散したなら文芸部に部室を明け渡すべきじゃないかと思ったんだが……まあいいか。 俺はお前が書いたこれも好きだけどな。 そういって俺は部室の扉を開けたのだが、何故かハルヒに背中を叩かれた。 何故だ? さて、どうして俺達がわざわざ休日の部室棟なんて所に居るのか?と思っている人も居るかもしれないな。 それにはちゃんとした訳がある、つまりは俺とハルヒの関係は結果的に彼氏彼女、俗に言う恋人って状態になったわけだ。 だが、さっきも言ったが朝比奈さん(大人)の予言には続きがある。 あの時は思わず流してしまったのだが、予言によればハルヒの告白、付き合いだす、そして……なんというかまあ、二人ははじめて結ばれるとあのお方は 仰ったわけだ。 この予言を回避する為に、俺はハルヒに明日は部室へ行こうと提案してみた。 いくらなんでも学校でそんな展開にはならないだろうし、部室ならいくらでも遊びようがあるからな。 それに、テスト明けの休日にわざわざ学校へ来るような向学心溢れる生徒は北校には一人も居ないだろう。 休日の最終日に部室へ行こうと言った俺をハルヒは不思議がっていたが、説得するまでもなくあっさりと承諾した。 「はい」 そう言って差し出されたお茶を手に取ると、 「み、みくるちゃんには敵わないと思うけど」 と、ハルヒはあわてて付け加えた。 まだ何も言ってないぞ、それにな。 「それに……なによ」 美味しいぞ、これ。 「ばっ!……ありがとう」 一瞬お盆を振り上げたハルヒは、そのまま後ろを向いてしまった。 本来、礼を言うのは俺の方なんじゃないだろうか?とも思ったがハルヒは嬉しそうにお盆を片づけに行く。 熱いお茶が心も体も温める感覚に酔いしれる、お茶はいいねえ。 二人っきりの部室は妙に広く感じて、なんとなく俺は長門の世界に迷い込んだ時の事を思い出していた。 静かな部室で、一人本を読んでいた眼鏡をかけた長門。 そういえばあいつは向こうの世界では何か小説を書いてたんだっけ? 結局読めなかったな。 鶴屋さんと仲良く、ごくごく普通の高校生活を送っていた朝比奈さん。 ……残念だが、俺の事は間違いなく不審者という認識で終わっているだろう。 不機嫌オーラ全開でぶつけようのない力を持て余してたハルヒと、そんなハルヒに好意を寄せる古泉。 二人は俺が居なかったらどうなるんだろうか?実らぬ恋で終わる……いや、案外うまくいくのかもしれない。 あいつらはみんな居なかった事になったんだろうか? それとも、俺にはわからないどこかでまだ続いているんだろうか? ――俺の居ないSOS団として。 「ね、ねえ」 ん? いつもの団長席に座ったばかりのハルヒが、パソコンの隣からこちらをちらちら見ている。 「そっちに行ってもいい?」 いいも何も朝比奈さんは今日は居ないし、お前の好きな所へ座ればいいだろ? と、思わず言いそうになったがここはそんな事を言うべきじゃないよな。 俺が黙って隣にあるパイプ椅子を手前に引くのにあわせて、ハルヒ顔に笑顔が浮かんだ。 少し赤面したハルヒが俺の隣に大人しく座っている。 それはそれで可愛いと思うんだが、何も話しかけてこないハルヒ相手に俺はどうしていいのかわからなかった。 誰に頼まれた訳でもないのに、不定期にとびっきりの面倒事を持ち込んできたハルヒが急に大人しくなってるんだ。無理もないだろ? だからといってこのまま病院の待合室のごとく並んで座っているのもなんなので、俺はなんとなくハルヒの手を握ってみると。 倒れるパイプ椅子と脊髄反射的に立ち上がるハルヒ。 「なんで離すの?」 お前は何を言ってるんだ? 手を振り払って立ち上がったのはお前じゃないか。 それに、お前が立とうとしてるのにそのまま掴んでたら倒れるだろ? 「ご、ごめん」 そういって座りなおしたハルヒは、おずおずと手を伸ばしてきた。どうやら握ってもいいという事らしい。 俺はそっとその手を掴んでみる。一瞬ハルヒの体がびくっとなったが、今度は逃げられなかった。 軽く握っている俺の手にハルヒの指がゆっくりと触れてくる。 うつむいているからよくわからないが、前髪の間から見えるその顔は真っ赤になっていた。 キスは無理やり奪えても、ハルヒにとっては髪を触られたり手を握られるのは恥ずかしい物なのかもしれん。 いつも俺を連れまわしてる時は、襟首だのネクタイだの好き勝手に掴んでたのに何で今日は恥ずかしそうなんだ? 「あれは!その、まだ団長と団員の関係だった時の事じゃない。今は違うから、これも違うの」 そうなのか。 「そうなの」 嬉しそうに言い切るハルヒを見ていると、俺も何故か嬉しかった。 この感情を文字にするなら多分、好きって言葉がすんなりと当てはまるはずなんだが、それを言葉にするのは恥ずかしいというか躊躇われるのは何故だろうね? 相手がその言葉を望んでいるだろうと思って、自分も伝えたいのに言葉にできない。そんなもどかしい感情を人は…… 「何考えてるの?」 いつの間にか多少顔色を平常に戻していたハルヒが俺の顔を見つめていた。 ハルヒな目に俺の緊張した顔が写っている、おいおい俺はこれからどうするつもりなんだ? ハルヒ。 俺の呼びかけをどう取ったのかわからないが、ハルヒは俺を見上げたまま目を閉じる。 これはつまり、その……。 昨日しておいて今日出来ないって事もないのだろうが、 「えええ!」 突然の大声は俺達の背後、隣の部屋から聞こえてきた。 それは残念ながらというか可憐な女子生徒といった声ではなく、男子生徒の狼狽したような声にしか聞こえない。 続いて聞こえてくるドアを開ける音、それに続く小さな足音とあわただしい足音。 「ま、待ってくれ?君が居なくなるってどういう事なんだい?」 入口のドアにある窓越しに見えた人影と、聞こえてくる声にも聞き覚えがある、あれはコンピ研の 「部長?」 俺とハルヒの声が重なった。 そっとドアを開けてみると、そこにはいかにもインドアそうな華奢な体つきの部長氏が、その体ですら隠せてしまうような小さな長門の肩を掴んでいた。 そんなに力強く揺さぶっているんじゃないのだろうが、長門はまるでマネキンの様に前後に揺さぶられるがままになっている。 「詳しく説明してくれないか?もうここには来れないってどんな意味なんだい?いや、それはまあ君のレベルから見れば僕らと一緒にいる時間に意味なんて 微塵もないんだろうけど……ってそうじゃない、居なくなるってどういう事なんだい?」 廊下に顔を出した俺と、困った様なそうでもないような顔で揺さぶられるままだった長門と視線が合う、 その目には、ありえないはずだが驚きといった感じの感情が浮かんでいるような気がした。 「ちょっとあんた!有希に乱暴するなんて何考えてるのよ!」 言葉と同じ速度ではないかと思う速さでハルヒが部室を飛び出していく。 以前、部長氏に問答無用で飛び蹴りを入れたお前が言うのもどうかと思うが、言ってることは正論だな。 でもお前が言うと不思議な気持ちになるのは何故だろう。 見ているだけに耐えかねたのだろう、言葉だけでなくハルヒが部長氏に掴みかかっていく。当然肩などではなく、襟だ。しかも片手で持ち上げてやがる。 それを乱暴と呼ぼう。 酸欠で弁論する機会を酸素的に奪われている部長氏には悪いが、先に長門だな。 まるで当事者ではないかのごとく平然とした顔で立つ長門に駆け寄った、急がないと部長氏が危ない。 長門、お前居なくなるって本当か?それってどういう事なんだ? 例の件はフラグ的に回避してる気がするから多分大丈夫だぞ? なんてハルヒの前では言えないが。 そう聞かれた長門は、ただじっと俺の顔を見ていて……不思議なことにそのまま視線を下へと向けてしまった。 俺にだけ聞こえる小さな声で長門は呟く。 「涼宮ハルヒは私にこの部室に居て欲しいと望んだ、だから私はここに居る。しかし同時に貴方と二人きりで居たいとも望んでいる。貴方達が部室に 近づいて来たのを感じてコンピ研の部室に隠れていた」 なんだそりゃ?っていうか居なくなるって話と関係なくないか? 「原因は不明。ここ数日、涼宮ハルヒの力は徐々に弱まってきていた。でも今は、これまでで最も大きい力を感じる。恐らく、彼女が望む事は 殆ど全てが現実になってしまう位に」 相変わらず長門の話は俺には理解できないのだが、俺を見つめる長門の眼からはある種の緊張のような物が感じられた。 「有希」 いつの間にかハルヒは部長氏を開放して、俺と長門の顔を交互に見つめていた。 その顔が怒っていたのならまだよかった。 俺は思わず息を飲み、言葉を無くす。 何故ならその時のハルヒの顔は、どう見ても不安そうだったのだ。 俺達の間に訪れる沈黙、静かな廊下には足元で荒い息をする部長氏の声だけが響いていた。 そんな中、遠くから誰かが階段を上ってくる足音が聞こえてくる。 「あ」 「これは」 その足音と声は。 「みくるちゃん、古泉君」 ハルヒ、これもお前が望んだからなのか? 解散したはずのSOS団のメンバーが、召集された訳でもないのに何故か揃ってしまったわけだ。 しかも人気のない、休日の部室棟に。 古泉、お前どうしてここへ? 俺の言葉に古泉は困った笑顔を浮かべる。 「どうして、と言われると困りますが。休日に他に行く当てがなかったもので」 嘘だ、それは俺でも即座にわかるレベルの嘘だった。 俺に視線を向ける古泉は、笑顔の中で必死に何かを訴えかけてきている。しかしそれが何を意味しているのかは俺にはわからない。 「みくるちゃんはどうしてここに?」 「え?あ、あの。お洋服を返す前にクリーニングに出そうかと思って……」 朝比奈さんの言葉を聞いてハルヒは口を閉ざす、どうやら思い出してしまった様だ。 俺達はもう、SOS団ではないという事に。 誰も口を開けない中。 「……なんだか知らないけど部室に入ったら? ここじゃ寒いだろう」 廊下に座ったままの部長氏が不思議そうな顔で提案してきた。 長門さんの事を後で教えてくれないか?彼女には色々勉強させてもらったから、もしも何か事情があって転校するとかなら僕達も何かしたいんだ。 そう俺に告げて部長氏はコンピ研に戻って行き、俺達は誰からともなく元SOS団の部室に入っていった。 長門がいつもの様に本棚から本を取り窓際へ向かい、朝比奈さんも迷う事無くポットへと歩いて行く。 俺は古泉の向かいに座って、ハルヒはいつもの団長席に座る。 いつもと同じSOS団にしか見えない光景、ただ俺達の間に流れる空気はいつものそれとはまったく違う物になっていた。 「はい。どうぞ」 もうSOS団はないのに、朝比奈さんはいつもの様にお茶を淹れてくれる。 その心づかいが今は何よりありがたいです。 お盆の上に並ぶ湯呑の数はいつもと同じ五人分、俺はさっきハルヒのお茶を飲んだばかりだったが小さく会釈して湯呑を受け取った。 習慣というものなのだろうか、古泉は決着間際で終わっていたボードゲームを取り出そうとしていた。 が、俺の視線を感じてその手を止める。 お前がそんな余裕のない顔をするなんてな。 一目でわかるほど、古泉の笑顔にいつもの余裕はなかった。 ハルヒはと言えば誰に視線を向けるでもなく、なんとなくパソコンを立ち上げたり窓の外を見てみたりと落ち着きがない。 誰も口を開かない中で、ハルヒのその行動はいつもとは違う意味で目立って見える。 そんな中でも長門はいつも通り無音の読書を続けていて、その部分だけ切り取ってみればいつものSOS団だと言えなくもない。 ……でも、SOS団が無かった時も長門は一人そうしていたんだろうな。 文芸部の部室で、一人読書をしていた眼鏡をかけたあの世界の長門と同じ様に。 古泉。 「え、あ。はい」 そんなに動揺するな。話にくいだろ。 何も予定がなくてここに来たんだろ?これからみんなでどこかに遊びに行くか? そうすれば朝比奈さん(大)の予言はまず間違いなく回避できるんだ。 だが、俺の思考はどうやら古泉には伝わらなかったらしい。 「いいですね。と、言いたい所ですがお邪魔になってはいけませんし。どうぞ僕の事は気にしないでください」 それは……無理だろう。 自分でもどうすればいいのかわからないのか、古泉はあいかわらず視線で何かを訴えかけている。 そうしている間も、朝比奈さんは黙々とハルヒに押し付けられた衣装をハンガーから外していき、袋の中へと詰め込んでいく。 どの衣装にも思い入れがあるのだろうか、ハンガーから外すたびに朝比奈さんは服を広げて固まったまま無言で見つめている。 「キョン」 ハルヒのたった一言の言葉に、部室の時間が止まった気がした。 団長席に座ったハルヒは、俺に向かって色々と思いつめた顔を向けている。 困ったような苦しいような、悲しいようなそんな顔で。 「……正直に言って? キョンは……」 続く言葉を選んでいるのか、ハルヒの口は言葉を紡がないまま弱弱しく動く。 古泉が何かを言おうとする気配を感じたが、俺はハルヒから視線が外せなかった。 ……なんだ?顔が動かない? 視線を外せないというのは比喩表現でもなんでもなく、俺の体は俺の意志に従って動くことを辞めてしまったかのようにピクリとも動かなくなっていた。 何が起きてるんだ? 突然の出来事に戸惑う余裕もない、表情すら変えられなくなった俺に向かってハルヒはようやく言葉を繋げる。 一度、窓際で読書をしている長門に視線を向けてから、 「あたしと一緒にいるより。ゆ……みんなと一緒に居た方が楽しい?」 まるでその言葉が合図だったかのように、俺の体は自由を取り戻す。 が、今度はハルヒへの返答を迫られた状態でやはり俺はハルヒから視線を外せなかった。 視線を向けないままだが、今古泉が俺に対して向けている視線ならすぐに意味が理解できる。 涼宮さんを選んでください。だろ? よくみれば、いつのまにか読書を辞めていた長門も俺を見つめていた。 その視線にはなんの感情もない様にしか見えないが、今は何かを訴えかけてきているように感じられる。 朝比奈さんは俺の後ろに居たので顔色を確認する事はできないが、あわあわとしている雰囲気だけはなんとなく感じられた。 数秒が数時間にも感じられる中、俺が口を開こうとすると。 「……みんな、何を隠してるの?」 俺を見つめるハルヒの顔から、表情が消えていた。 『恐らく、彼女が望む事は殆ど現実になってしまう位に』 長門の言葉が思い出された瞬間、俺は即座に後悔した。 何故なら俺は連想してしまったのだ、もしここでハルヒに知られたら最も困る事は何か、を。 「嘘でしょ」 目を見開いたハルヒが突然立ち上がり、古泉、朝比奈さん、長門へと視線を向けていく。 「キョン今のなんなの? え? ……嘘。古泉君、みくるちゃん嘘でしょ? ねえ。有希……有希? そんな、そんな事あるわけない。そんなの嫌!」 ハルヒ! 全員の視線が集まる中で、ハルヒは何かを否定するように首を振る。 「そんなの……居るはずないじゃない!」 錯乱して叫ぶハルヒに俺が駆け寄ろうとした瞬間、俺は信じられない物を見てしまった。 古泉が、朝比奈さんが、長門が。 ハルヒの叫んだ言葉に合わせて、三人とも消えてしまったのだ。 嫌な程の静寂が部室に戻る。 嘘……だろ? それは僅か数秒の間の出来事だったのに、俺は何もできなかった。 古泉が居たパイプ椅子は無人のままテーブルから少し離れた位置に置かれていて、窓際の長門の椅子には開いたままの本が置かれている。 朝比奈さんがまとめていた服が入った袋は、支える人がいなくなった事で音をたててゆっくりと崩れ、中に入っていた服がいくつかはみ出して止まった。 俺はハルヒに駆け寄ろうとしたままの姿勢で固まっている。 何が起きたのかなんて考えたくない、考えなくてもわかってしまったがそれを認めたくない。 「なんなの……なんで?キョンやみんなの思ってる事が聞こえてきて、どうして?なんでみんな消えちゃったの?」 震えるハルヒの声に、俺はなんて答えてやればいいのかわからなかった。 どうすればいい? 何かあるはずだ! あれから三日もあったのに俺は何を考えてきたんだ? 背中を伝う嫌な汗が止まらない。 なんとか自分を奮い立たせて、俺は呆然として立ち尽くすハルヒに近寄る。 ハルヒ。 「キョン、どうして?なんでみんな」 脅えが浮かぶその目をじっと見つめる。 ハルヒ、俺が今から言う言葉をそのまま言ってくれ。できれば心からそう思って言ってくれるといい。 「何それ、キョン。顔、怖いよ?ねえ」 怯えるハルヒの肩に手をのせると、ハルヒの体は大げさな程に震えた。 頼むぜハルヒ。もうこの状況を何とかできるやつはお前しか居ないんだ。 小さく息をついて、俺は言葉を選ぶ。頼む、奇跡って奴があるなら今ここで起きてくれ! 宇宙人、未来人、超能力者は私の所に来なさい。以上だ。 何言ってるの? と言い返しそうな顔をしたハルヒだったが、俺の顔が本気なのを見てぽつぽつと呟いた。 「宇宙人、未来人、超能力者は私の所にきなさい……これでいいの?」 疑いながらも素直に俺の言葉通りに呟くハルヒだったが、振り向いた俺の視界に入ったのは無人の部室だった。 嘘だろ? なんでだ? 今更だが俺の体も震えだす、それはみんなが居なくなってしまった事へのショックもある。 だがそれ以上に、この事態を招いてしまったのはハルヒの力による物だという事を知られたくなかったからだったのだが……。 「キョン」 最悪だ。 再び俺が視線を戻した時、ハルヒは声を殺して泣いていた。 最悪で大馬鹿野郎だ。 俺に何か言おうと口を開くが、ハルヒは何も言えないまま両手で顔を覆ってしまう。 最悪で大馬鹿野郎で救いようのないカマドウマ以下の糞野郎だ。 涙が流れるのも気にせずに、ハルヒは部室が震えるほどの大声で叫んだ。 「宇宙人も未来人も超能力者も居る! 居るの! だからみんな帰ってきて? 有希! みくるちゃん……古泉君……お願い……お願いするから。キョン、 あたし願ってるの! 本当よ? ……なんでダメなの? みんな……みんな。キョン、全部私のせいなんだよね?」 何故、ハルヒが願ってもみんなは元に戻れなかったのか? それは俺にはわからない。 俺にわかるのは、ハルヒに最も教えてはいけない事。 全ての原因は願望を実現するハルヒの力だという事を思い浮かべてしまった俺が、救いようのない馬鹿野郎だって事だけだ。 ただ泣きじゃくるハルヒを見ていた俺は、この上最悪の言葉まで思い出してしまう。 その言葉が思い出されるのを押しとどめようと思わず頭を振った瞬間。 「見ないで」 ハルヒの声が聞こえたと思った時、そこにはもう、ハルヒは居なかった。 机の上にはさっきまで確かにあった団長とかかれた三角錐もパソコンは無く、振り向けばそこに朝比奈さんの衣装もない。 本棚を確認する頃には俺の心は既にあきらめていた、そして思い出されるあの言葉。 ――俺だけが、残る。 古泉の呼び出しからはじまった今回の出来事で、相談した全員が出したその答え。 けだるい体を動かし、なんとか俺はパイプ椅子に体を預ける。 人事も尽くさなかった俺には天命を待つ資格すらない。 物音一つしない部室の中、俺だけが残ってしまった。 その日どうやって家に帰ったのか、果たして夕食は食べたのか。どうやって登校してきたのかも覚えていない。 ただ覚えているのは暗い自分の部屋で布団にもぐり――またハルヒにあの閉鎖空間へ呼び出さるのをじっと待っていた事だけだ。 「なるほどね」 話が終わった所で、朝倉は気を使っているのかことさら明るくそう答えた。 俺は長門がIFの世界に作り変えた事と、その世界を元に戻そうとした時に朝倉が俺を殺そうとした事も一緒に話したのだが朝倉はその話には あまり興味が無いようだった。 どうやら本当に知らないみたいだな、あの時の事は古泉も知らなかったし本当に別の世界の出来事なのかもしれない。 今度はそっちの番だろ。 俺の言葉に、朝倉は少し寂しそうな笑顔を浮かべる。 「そうね。でも最初に言っておくけど、私が全てを元に戻すことができる。なんて期待だけはしないでね?」 恐らくそれは嘘ではないんだろう、その時何故だか知らないが俺はそう思った。 「あの日貴方を殺しそこねた私は、長門さんに情報連結を解除された。そして最初に言ったように涼宮さんの認識によってカナダに再構成されたの。 何の力もない、ただの女子高校生としてね。涼宮さんにとって、私は宇宙人じゃなかったんだから仕方なかった事だとは思うけど最初は大変だったわよ。 でもまあ、貴方の話によれば宇宙人だと認識されていたら私も消えてしまってたんだろうし、これも運命って感じかしら」 軽く話す朝倉だが、俺にはそんな外国で一人取り残されても生存能力はない自信があるぞ。 よく無事だったな。 「無事とは言えないわね、だってすぐに警察に捕まってパスポートも無い私は不法入国って事になってしばらく拘束されてたんだもん…… まあ、合法的に入国してないのは確かだから文句は言えないけどね。強制送還されるかな?って思ってたんだけど、初犯だし未成年だから 保釈金さえ払えばいいって言われてそれからは自由の身。現地の領事館でパスポートも作ったし、すぐに日本に戻って良かったんだけど 特に戻る理由がなかったからカナダでのんびりしてたわ」 朝倉、お前英語が話せるのか?それとよくそんなにお金があったな。 「ああ、人間の通貨は涼宮さんを観察する上で一般生活を不自然なく過ごす為に必要だから、銀行のデータをいじってあらかじめ準備してあったの。 それに人間の使う言語なら一通り知ってるわよ、もちろん長門さんも私と同じ」 俺には、長門が流暢に外国語を話す姿ってのはどうしても想像できない。 「それで、ここからが本題ね。涼宮さんの存在が消えた時、それを私も感じたの。どうしてわかったのかなんて言われても困るけど、 多分私が涼宮さんの創造物だからじゃないかな。あの時、涼宮さんは人外の存在を否定した。だから貴方はここに残っている事ができて、私も残れた。 そして再び出会った二人、これってアダムとイヴみたいじゃない?」 大違いだ。 そう言いながらも俺は落胆を隠せなかった。何故なら、だ。 朝倉の話通りなら、この世界にはもう宇宙人、未来人、超能力者は存在しないって事になるんだろ?。 みんなを取り戻す為に必要なのは正にそんな存在だったのに、その可能性すらも残ってないのかよ?……まったく、溜息しか出ないぜ。 古泉、お前の理論は外れたな。 最後まで俺が残れたから俺が特別なんじゃなくて、俺はただの人間だから取り残されちまっただけみたいだ。 「今日はもう遅いし、続きはまた明日学校で話しましょう。また同じクラスに編入できるかどうかわからないけど、仲良くして欲しいな。あ、結局荷物も 殆ど貴方一人に運んでもらっちゃったし、なんだったら今日は泊っていってもいいよ?」 返事をする気にもなれない。 俯いたままソファーに座っている俺の横に朝倉が近づいてくる、それを無視していると朝倉はそのまま俺の隣に座った。 そのまま俺に体重を預けてくる朝倉の体温が、腕越しに伝わってくる。 「取り残された者同士仲良くするのっていけない?どうせなら、全てを知ってる人同士の方が長続きすると思うんだけどな。私と一緒に居れば、いつか涼宮さん 達を取り戻すチャンスが巡ってくるかもしれないし」 そうだな、はいはい。 ――付き合いきれん。ソファーから立ち上がろうとする俺を手を朝倉は掴んでくる、そして俺に寂しそうな視線を向けて来ていた。 そこには夕陽の校舎の中で俺にナイフを向けてきた時に見せた機械的な笑顔も、早朝の校門前で俺にナイフを刺してくれたあの時の狂気の顔もなく、 ただ寂しいと伝えてくる同級生の顔がある。 「……ねえ、キョン君」 朝倉は軽く俺の手を握っているだけで、振り払おうと思えばその手は簡単に振り払えてしまうだろう。 考えてみればいくらお金があって知識があっても、今の朝倉はただの人間なんだ。 それが外国で一人取り残されて、辛くないわけがないよな。 誰にも連絡を取らず、日本に戻らなかったのも再び自分が消されてしまうかもしれないなら当然だ。 朝倉の瞳が潤んできたのが見えた時、俺はその手を―― 乱暴に振り払った。 そっと振り払った。
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今日のハルヒは少し変だ。 どいつよりも一番長くハルヒと付き合ってきた俺が言うのだから間違いない。 いつもは蝉のようにうるさいハルヒが、今日は何故か静かだし、 顔もなんだか考え事をしているような顔だ。 「どうしたハルヒ。」 俺は休み時間になってからずっと窓の外を眺めているハルヒに話しかけた。 「なにがよ。」 「元気ないじゃないか。」 俺がそう言うと、ハルヒは眉と眉のあいだにしわをつくって、 「私はいつでも元気よ。」 「そうかね。そうは見えないんだがな。」 ハルヒは俺の言葉を無視し、窓の外に目をやり、 「今日も来るんでしょうね」 「どこにだ。」 「SOS団部室によ。」 いちいち聞くこともないだろうよ。 「ああ、行くよ。」 ハルヒは窓のそとにやっていた視線を俺の目に向け言った。 「絶対よ。」 今日の授業も全て終わり、俺はいつものようにSOS団部室―実際は文芸部室なのだが―に向かった。 ドアをコンコンとノックする。これもまたいつも通りだ。 「どうぞ。」 朝比奈さんの声でドアを開けると、ハルヒはもう既に団長席に座っていた。 「遅いじゃない。」 何を言ってる、いつも通りだ。 「来ようと思えばもっと早く来れるでしょう?まったく、意識が薄いのよ。 部室への集合にも罰金制度を取り入れようかしら・・・。」 なにやら不穏なことをぶつぶつ言っている。おいおい勘弁してくれ。 休日のオゴリだけでもきついのにそれに上乗せされちゃあ、たまったもんじゃねぇぜ。 「なら、明日からはもっと早く来るって約束しなさいよ。」 へいへい。だが、どうせ早く来ても俺のやることといったら古泉とのオセロぐらいしかないのだが。 「今日は負けませんよ。」 古泉は長テーブルにオセロのボードを広げて既にスタンバイOKのようだ。 お前はそう言って毎回負けるんだよなぁ。 俺と古泉がオセロをしている間、ハルヒは珍しくいつものようにパソコンをつけずに、 俺と古泉の勝負風景をじっと眺めていた。 「なぁハルヒ。」 俺は視線はオセロのボードに落としたまま言った。 「なによ。」 「見られてると非常にやりにくいのだが。」 「プロの将棋師とかはたくさんの人に注目されてる中でやるのよ? これぐらい耐えられなくてどうするのよ。」 どうもせん。大体、俺はプロじゃないし、今やってるのは将棋でもない。オセロだ。 そんなツッコミを入れつつ、俺は古泉の白を黒に変える。 「いやぁ、参りました。完敗です。」 古泉は両手をあげて言う。 「古泉くん弱いわねー。」 ハルヒはパイプ椅子から立ち上がった。何だ? 「私がやるわ。古泉くん代わって。」 マジで? 「どうぞどうぞ。でも、彼は強いですよ。」 お前が弱いだけだろうが。 ハルヒは古泉から譲りうけた席にでんと座り、 古泉はさっきまでハルヒが座っていた席に腰掛けた。 「さぁ、キョン。始めるわよ。私が黒ね!」 そう言ってハルヒはボードに一手目を置いた。 やれやれ。 結果。 俺が勝った。 「何よコレぇ!キョン!もう一回よ!」 またかよ。お前は勝てるまで続けるような気がする。 今度は俺が先手で始まった。 そして結果。 俺が勝った。 「なーにーコーレー!!なんで私が馬鹿キョンに負けるのよ!!」 毎日糞弱い古泉と鍛えているんだ。馬鹿にしないでほしい。 「もう一回よ!!」 ・・・やれやれ。 「やった、勝った!キョン、あんた大した事ないわねー。」 俺に5回も負けといてよく言えるな。 「あんたはいつも古泉君と鍛えてるでしょー?私はオセロなんて滅多にやらないもん。」 なんじゃそりゃ。小学生か。 ふと、横を見ると古泉がニヤニヤしながらこちらを見ていた。何が面白いんだ。 「古泉くん!」 「なんでしょうか?」 「他にゲーム持ってないの?なんかこう、SOS団みんなで遊べるようなもの!」 そんなにたくさんゲームを学校に持ってきてるわけないだろう。 「ありますよ。」 あるんかい。 古泉はバッグのファスナーをあけると、中からずるずるとなにか取り出した。 「何だそれは?」 古泉はニコリと笑って見せた。 「人生ゲームです。」 「人生ゲームね!面白そうじゃない!有希!みくるちゃん!あなた達も参加しなさい!」 ハルヒの顔は輝いている。朝の鬱モードはもう既にどこかに吹っ飛んでしまったらしい。 「ふぇ?」 編み物をしていた朝比奈さんは、何の話か聞いていなかったらしく、きょとんをした表情で顔を上げる。 「だから、人生ゲームよ。有希ちゃんも、ほら。」 ハルヒが言うと、長門は読んでいた本をぱたんと閉じ、すたすたと俺の横の席まで歩いてきてすとんと座った。 「始めるわよ。みくるちゃんと古泉くんも席に着きなさい。」 朝比奈さんと古泉も着席し、ゲームが始まった。 「やった、結婚よ!いいでしょ、キョン。羨ましい?」 羨ましくない。ボード上の世界で結婚してもしょうがないだろう。 「でもあんた、現実でも、結婚はおろか彼女すらできないんじゃない?」 痛いところを突くな。と、次は俺の番か。 俺は出た数だけ駒を進める。 ん?「株で1000万儲けた」、ねぇ。本当にあればいいのにな。 現実はそんなに甘くないのだよ。 最終的に勝者になったのは長門だった。 その次からハルヒ、俺、朝日奈さん、古泉の順だ。 古泉お前、全員でやってもやっぱり弱いのな。 「面白かったわ!古泉くん、明日はあのスゴロク持ってきてちょうだい!」 あの スゴロク・・・?っていうとあれか。 大晦日のときにやったSOS団オリジナルの、やたらと俺いじめのマスが多いスゴロク。 あれはもうやりたくないな・・・。 それから数十分して。 ぱたん。と、長門の本が閉じられた。 「今日は皆で帰るわよ!」 ハルヒは両手を腰に当てて、偉そうに言った。 「すまん、ハルヒ。俺は今日早めに帰って見たいドラマがあるんだ。」 「何言ってるのよ。そんなの録画しとけばよかったんじゃない。 いい、キョン?団長の命令は絶対なのよ。例外は認められないわ。」 ハルヒは眉を吊り上げながら、俺に顔をぐいっと近づけて言った。やれやれ。 帰り道、ハルヒはいつも以上にやたら活発だった。 急に競争をしようだとか、荷物持ちのじゃんけんをしようだとか小学生レベルの事を言い出したり、 どこから持ってきたのか、眼鏡を長門にかけさせて遊んだり、 朝比奈さんの胸を・・・っておい!!何をしているハルヒ!! お前がもし男だったら俺の鉄槌の拳が飛んでいたところだ。 しばらくすると、はしゃぎ疲れたらしい、歩くのがゆっくりになってきた。 「ハルヒ、お前今日はやけに元気がいいな。」 「そう?いつももこれぐらいだと思うけど。」 ハルヒは軽く息を切らしながらハイビスカススマイルで答えた。 「そうかねぇ。」 しばらくそのまま歩いていると、ハルヒは急に足を止めた。どうした? 見ると、ハルヒの顔は先程のようなスマイリーな表情ではなく、 真面目な顔になっていた。 「ねぇ皆。ちょっと聞いて欲しいんだけど・・・。」 他の奴等も足を止め、ハルヒに注目する。 「・・・・・・・・・。」 ハルヒはそのまま黙り込む。何だ、言いたい事があるなら早く言えよ。 「・・・・・・。」 ハルヒは小さく口を開いて声を発しようとしたが、すぐにやめて口を閉じた。 焦らすな。早く言え。 それからまた黙り込んだあと、急にまたさっきのようなスマイルに戻って口を開いた。 「いや、ごめん。なんでもないわ。つまらないことだから気にしないで。」 そう言うと、ハルヒはまた歩き出した。合わせて俺達も歩き出す。 ハルヒが前で歩いていた朝比奈さんのところに駆けていったのを見計らって、 古泉は俺に近づいてきて小声で言った。 「何かありますね。」 「・・・ああ。」 次の日、朝になるとハルヒはまた鬱モードに突入していた。 「よぉ。」 俺がバッグを机の上に置きながらハルヒに話しかけると、 ハルヒは挨拶を返すことなく言った。 「今日何日だっけ?」 そんなの前の黒板の日付みればいいだろ。 「3月・・・9日よね?」 ああ。 「金曜日よね?」 ああ。それがどうした。 「いや・・・、なんでもない。」 やっぱり何かあるな。昨日のハルヒも今日のハルヒも何かおかしい。 テンションも不規則に上がり下がりするし。 「ねぇキョン。」 ハルヒは顔をずいっと近づけてきた。 「今日も部室来なさいよね。」 昨日ハルヒに部室の集合に関してあーだこーだ言われたため、 今日はホームルームが終わってすぐに部室に向かった。 部室につくと、古泉がいつものニヤケ顔でパイプ椅子に座っていた。 「やぁ。」 古泉はさわやかな表情で慣れ慣れしく左手を挙げた。 「朝比奈さんはまだか。」 「えぇ。長門さんならいますけどね。」 古泉が片手で示した先には、いつも通り窓辺で本を読む長門がいた。 よくそんなに本ばかり読んで飽きないものだ。 「ところで、涼宮さんはまだでしょうか?」 「岡部に話があるんだとさ。まだ来ないと思うぞ。」 「それは都合がいいですね。話があるのですが、良いですか?」 なんだ。また何か面倒ごとに巻き込むつもりか? 「実は、昨日の夕方から夜中にかけて、大量の閉鎖空間が発生したんですよ。 はっきり申し上げますと、昨日の量は異常でした。 最近落ち着いてきたと思ってたんですがね。」 古泉はやれやれ、と肩をすくめた。 「・・・どういうことだ?」 俺は目を細めてみせる。 「わかりません。僕達の機関の調査では。」 古泉はニコニコ顔を崩さず言う。 「悩み事とかあるんじゃないでしょうか。 恋の悩みとか。ベッドの中であなたのことを考えるあまりに、 異常な量の閉鎖空間を生み出してしまった、とか。」 冗談にしては笑えないぞ古泉。 「完全に否定はできませんよ?フフフ。」 ・・・何が面白いんだ古泉。というか、何故俺なんだ。 古泉は心外そうな顔をして、 「おや?あなたもしかしてまだ・・・」 そこで言いとどまると、ニヤケ面を5割増しして言った。 「いえ、言わないでおきましょう。」 何故か古泉のニヤケが無性に憎く見えた。 「何にせよ、涼宮さんが何かに苛立っているというのは明らかです。 ただし、僕達と一緒にいるときは閉鎖空間の発生はみられないそうです。」 何に苛立っているというんだ。 「ですから、それがわからなくて困っているのです。」 昨日今日のハルヒの様子が変なのもそのせいか。 「そのようですね。ところで、昨日の話ですが。 昨日涼宮さんが言いとどまった言葉、なんだと思いますか?」 さぁな。 「僕達になにか伝えようとしていましたね。 あの表情からして、とても重要な話だと思うのですが、どうでしょう?」 知らん。 「全員に呼びかけたってことは、告白ってわけではないでしょうね。」 古泉はニヤケ顔を更に5割増する。なんだその目は。 「いえ、何でもありませんよ。フフフ。」 そう言って微笑む古泉の顔が不気味に見えて仕方が無い。 「あの涼宮さんが言いとどまった言葉、 あれが涼宮さんの苛立ちと関係があるような気がするのですが。」 さぁな。 「涼宮さんに聞いてみたら早い話ですがね。」 ハルヒが言いたくないことを無理に聞く必要も無いだろう。やめとけ。 「当然そのつもりですよ。まぁ、聞かずともいずれ彼女から話してくれるでしょう。」 そうだな。 「ヤッホー!!皆元気~?」 毎回のようにドアを蹴り破って登場した我らが団長。後ろには朝比奈さんがついている。 「みくるちゃんとそこの廊下であって、一緒に来たのよ。」 そうかい。 「さて、キョンと古泉くん。」 「なんだ。」 俺が言うと、ハルヒは少し顔をしかめ、ドアの方を指さした。 ああ、そういうことね。と、俺は朝比奈さんをちらりと見て、 ドアの元まで行き、一礼して部室を出た。遅れて古泉も。 「どうぞ」 朝比奈さんの声を確認し、ドアを開けると、意外な光景を目にした。 朝比奈さんがメイド服を着ているのはいつも通りだが、 なんとハルヒが朝比奈さんが前に着ていたナース服を着ているではないか。 「これはこれは。」 古泉も少なからず驚いているようだった。 「たまには私も着てみたわ。どう?」 ハルヒは得意気に髪を掻きあげた。 「いいんじゃないか。」 「何よ、その薄いリアクションは! もっとこう、『わー!ハルヒ可愛い!!』とかないの?」 わー。ハルヒかわいー。 「あーもう、イライラするわねー。もういいわ。」 とりあえず薄くリアクションしておいたが、内心、可愛いと思っていた。 朝比奈さんのナース姿も良かったが、ハルヒのそれもなかなかのものだ。 「僕は似合ってると思いますがね。可愛いですよ。」 「でしょ?ありがとう古泉くん。 やっぱりわかる人にはわかるのよねー。」 喜べハルヒ。その格好で秋葉原に行けば注目の的だぞ。 お前が言う わかる人 ってのもいっぱいいる。 …ところで、いきなりナース服を着だしたりだとか、 やはり最近のハルヒは変だ。 まぁいいか、楽しそうだし。教室のときのように鬱にしてるのより何倍もましだな。 「さぁ、スゴロクやるわよ、スゴロク!!古泉くん、持ってきてるでしょうね?」 げ。 「はい、もちろん。」 げげ。 古泉はバッグのファスナーを開けると、ずるずると大きな紙を取り出した。 やれやれ。 今日は日曜日、不思議探索パトロールをすることになってる日だ。 少しばかり寝坊した俺は、大急ぎで歯を磨き、髪を直し、服を着て待ち合わせ場所に走った。 他のメンバーは既に揃っている。 「遅い! 遅刻!! 罰金!!!」 このフレーズを聞くのも何回目だろう。これを聞くたびに俺の財布は打撃を受ける。 「と、言いたいところだけど、今日は私がおごるわ。」 は? 今ハルヒ何と言った?パードゥンミー?ワンモア、プリーズ? 「だから、今日は私がおごってあげるって言ってるじゃない。」 俺の耳は故障してしまったのだろうか。すまん、もう一度だけ頼む。 「今日は私のおごりよ!」 なんと。なんとなんと。思わず目眩がした。 今日は雪でも降るんじゃないか。いや、もう隕石が雨のように降ってきそうな勢いだ。 「何馬鹿なこと言ってんのよ。行くわよ、キョン。」 やはりおかしい。絶対におかしい。ハルヒがおごるなんて普通考えられない。 「キョンは何にするの?今日は高いもの頼んでもらっていいわよ!」 こんなことを言う事も、だ。どういう気の変わりようだ? 「何もないわよ。ほら、さっさと選んじゃいなさいよ。」 俺は何かハルヒの陰謀があるのではないか、と あえて高い物を選ばず、中くらいの物を注文した。 「何よ、遠慮することにないのに。」 何か怖くてな。すまん。 そして俺達は食事を済ませ、毎回恒例のくじ引きタイムに入った。 まず古泉が引く。無印。 次に朝日奈さん。無印。 次に俺。赤印 次に長門。無印。 「て、ことは私は赤ね。」 ハルヒは爪楊枝を掴んでいた手を開く。 爪楊枝の先には赤い印がはっきりと刻まれていた。 横に彼女を連れて、手を繋いで歩く。これはモテない男誰もが夢見ることだろう。 しかし、俺が手を繋ぐのではなく、手首を掴まれているのは何故だろう。 答えは簡単。連れている女が涼宮ハルヒだからだ。 「ちょっとキョン!もっとシャキシャキ歩きなさいよ! まず何処行く?デパートの食料品店で試食品でも食べ歩く? それとも、服でも買いに行こうか?今日はたくさんお金持ってきてるしね。」 どうやらこいつは 不思議 を探す気などさらさら無いらしい。 「どこでもいいぞ。お前のすきなところで。」 なんだか今日のハルヒの足取りは軽い。全身からウキウキオーラが放射されまくっている。 「あっそうだキョン!あたし観たい映画があるんだったわ! 一緒に観に行きましょう!」 映画・・・か。まぁ、このままハルヒに色々連れまわされるよりはいいだろう。 「決定ね!じゃあ行きましょう!」 俺は手首を掴まれたまま、映画館まで連れて行かされた。 なにやら甘ったるい匂いがするのは、受付の横の、なにやら色々飲食物を売ってる店のせいだろう。 「チケット2枚。」 俺がハルヒの分のチケットも買ってやっていると、ハルヒがポップコーンとコーラを持ってきて、 「はい、これ。あんたの分よ。私のおごりね。」 今日のハルヒは気前がいいな。 「それじゃあ行きましょう。早く行かないと始まっちゃうわ!」 そう言ってハルヒはまた俺の手首を掴んだ。やれやれ。 映写機がじりじりとスクリーンに映画を映し出す。 観ている内にわかったが、これは流行りの 感動モノ の映画らしい。 そして、今が一番泣き所のクライマックスのシーンだと思われるが、 どうした事か、俺の目からは涙の一滴すら落ちてこない。 もう少しピュアな心を持っていれば泣けるのだろうが、 俺の心はとっくにがさがさに荒んでいるのでな。 俺がふと横を見ると、意外な光景がそこにあった。 映画にかぶりついているハルヒの目に、若干涙が浮かんでいるではないか。 ハルヒはしきりに、服の袖で目を拭っている。 そのままハルヒはしばらくスクリーンを凝視していたが、俺の視線に気付くと、呆れ顔をつくって言った。 「何であんたこれで泣けないの?馬鹿じゃない?」 馬鹿ではないと思う。 外に出てみると、さっきは暗くてよくわからなかったが、ハルヒの目元が少し赤くなっていた。 「よかったわー、あの映画・・・。 あんなクオリティの高い映画はこの先そうそう作れないと思うわ。」 俺は全然泣けなかったけどな。 「あれで泣けないってのがおかしいのよ! あれで泣けないなんて信じられないわ。人間じゃないわ!」 おいおい、ついには人間以下かよ。 「まぁいいわ。楽しかったし。 おっと、そろそろ集合時間ね。待ち合わせ場所に急ぎましょう!」 ハルヒはそう言うと俺の手首を掴む。もうちょっと穏やかにできないのか。 せめて手を繋ぐとか。 「手、手ってあんたと?私が?」 冗談だ。本気にするなよ。 「あ、冗談ね。冗談か。 そうよね、あんたと手繋いで恋人同士だと思われたらとんでもないわよ!」 ハルヒは何故か少し動揺しながら言った。なにを焦ってんだか。 ハルヒが俺の手首を掴んでずんずんと商店街を行く。 と、ここで見慣れた二人組が目に入った。 「あ、谷口と国木田じゃねぇか。」 俺は足を止める。と、同時にハルヒも足を止めた。 「ようキョン。」 「奇遇だね、何やってたんだい、キョン。」 谷口と国木田は私服姿だ。お前等こそ男二人で何やってんだ? 「別に。ゲーセンとか行ってぶらぶらと遊んでただけさ。」 そう言うと、谷口は俺とハルヒを舐めまわすように見てきた。何だ? 「お前等は二人してデートか?いいねぇ、お熱くて。」 馬鹿言うな。これはSOS団の不思議探索パトロールだ。 「不思議探索パトロール?それって何するんだい?」 国木田の言葉に少し返答に困った。まさか 映画をみたりすること とは言えまい。 「街中で不思議な事が無いか探すんだよ。」 適当にごまかしておく。 「ふーん。変なことしてるねぇ。まぁいいや。じゃあ、僕達は行くよ。じゃあねキョン。」 「またな。」 「おう、じゃあな。あ、そうだ、待て谷口。チャック、開いてるぞ。」 「うわっマジかよ!!っていうか何で国木田教えてくれなかったんだよ!」 「え?それって新しいファッションかなんかじゃないの?」 「違ぇよ! やべーさっきこのままナンパしちまったよ。変態だと思われたかも・・・。」 「大丈夫だよ、谷口。君はもう顔が変態的だから。」 「えっ!?何それ?どういう意味!?」 「それじゃあね、キョン。」 「無視するなよ国木田!なんか今日お前悪い子だぞ!」 「じゃあな。国木田、谷口」 そう言って俺達は谷口達と別れた。 何やら後ろから「谷口ウザイ」という国木田の声が聞こえた気がするが空耳だろう。 集合場所につくと、既に他三人は揃っていた。 「ゴッメーン。遅れちゃった!」 ハルヒは右手を挙げる。 「それでは、また喫茶店に入りましょうか。」 本日2度目の喫茶店。今度もハルヒのおごりだった。 「それじゃあ、くじ引きしましょう。」 ハルヒは慣れた手つきで爪楊枝に印をつける。 まず長門が引いた。赤印。 次に俺。無印。 次に朝比奈さん。無印。やった朝日奈さんと一緒だ。 次に古泉。赤印。 「じゃ、私が無印ね。」 班分けは俺とハルヒと朝日奈さん、古泉と長門になった。 俺はいいのだが、古泉と長門は二人で話すことなどあるのだろうか、と少し心配になる。 ハルヒは今度は片手は俺の手首、もう片方の手は朝比奈さんの手首を掴んで歩き出した。 「出発よ!さて、キョン、みくるちゃん?何処に行きたい?」 俺はさっきも言っただろう、お前に任せると。 「みくるちゃんは?」 「えーっと・・・じゃあ、お茶の葉を買いに行きたいです。」 「じゃあまずはお茶の葉ね!行きましょう!」 やれやれ。 歩く事数分、茶葉の専門店みたいなところについた。 朝比奈さんは目を輝かせていたが、俺とハルヒはお茶の葉のことについてなんて全然知識ないから 店内に置かれた椅子にすわって暇を持て余していた。 朝比奈さんは店長さんとお茶の話で盛り上がっている。 少し耳を傾けてみたがさっぱりわからん。 しばらくして、 「お待たせしました。では行きましょう。」 楽しそうに駆け寄ってきた朝日奈さんは、茶葉の入った箱を抱えていた。 その後、デパートに行って試食品を食べ歩くなど地味ーなことをしたり、 ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーを楽しんだりした。 楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので、時刻はあっという間に集合時間前だ。 「楽しかったわー。キョンのUFOキャッチャーの腕前は意外だったわねー。」 ハルヒは俺が取ってやった熊のぬいぐるみを両手に抱えて、もこもこさせながら言った。 ゲーセンは谷口達とよく行ったからな。SOS団に入ってからは、あまり行くことも無くなったが。 「私も楽しかったです。ありがとうキョンくん」 いや、俺にお礼を言われても困るんですけど・・・。 「あ、有希!古泉くん!」 まだ集合10分前なのに、長門と古泉は既に集合場所に到着していた。 やはりやることがなかったのだろう。 そしてその日はそのまま解散することになった。 涼宮ハルヒの異変 下